斎藤幸平さんと福島党首が対談 ー『人新世の「資本論」』で考える 人類の危機どう乗り越えるかー
(社会新報2021年11月3日号1面より)
福島みずほ社民党党首が10月13日、ベストセラーの書『人新世の「資本論」』の著者、斎藤幸平さんと党オフィシャル・ユーチューブ番組で対談した。その内容を紹介する。
福島みずほ社民党党首 まずは斎藤さんが考えるパラダイム転換のイメージからお話しください。
資本主義の二つの危機
斎藤幸平さん コロナ禍は、これから確実にやってくる危機の始まりにすぎない。最大の危機は気候変動。もう一つの危機は、新自由主義が生み出す格差だ。岸田首相の「新しい資本主義」が、この二つの危機に対処可能とは思えない。「成長して分配を」は、高度成長期の残像でしかない。
こんなことをやっているのは日本だけ。世界のトレンドは、再生可能エネルギー、電気自動車などに投資を振り向ける「緑の資本主義」。もちろん、それでも不十分で、目指すべきは「脱成長コミュニズム」だ。
今の若者には、経済成長で豊かになるという実感が、そもそもない。だから、世界の若者の間では、ジェネレーション・レフト(左派世代)といって、資本主義とは違う、少なくとも新自由主義には断固としたノーを突きつけ、公正・平等な社会へと向かう流れが出てきている。すでに先進国には、みんなが普通に暮らせるだけの富がある。その偏在を正し、公正にシェアするだけで、豊かな社会が実現する。ただし、私たちが思い描く豊かな社会は、金もうけを追い求める社会ではない。長時間労働を強いられながら、お金のことばかりを心配しなくても暮らせる社会、スポーツや勉強、芸術などの本来の人間らしい活動に時間を使える社会だ。
変化を実感できる政策
福島 ノルウェーで、DV(家庭内暴力)の話を聞くためにNGOに夕方の4時半にアポを入れたら怒られた。みんなが帰るころにアポなんて非常識だと。気候・環境危機の面では、日本の政府は脱炭素を唱えながら、大型の火力発電所をつくると言う。脱原発も決めない。それどころか、安全・安心、安価なエネルギーとして原発を活用すると宣伝する始末だ。
斎藤 変化を実感できる提案、政策を左派が打ち出せていない。ベルリンでは、リングバーンという山手線みたいな環状線の内側を自動車を全面禁止にするといった野心的な取り組みが動き始めている。こういうスケール感の提案が、私自身も含めて日本の左派にはない。
福島 国連人権理事会の「健康でクリーンで持続可能な社会で生きる権利は人権である」との決議で、棄権した国が4つある。ロシア、中国、インド、日本だ。これで日本は大丈夫なのか、と思う。
気候変動対策を闘う
斎藤 日本に人権があるのか、ということだ。私たち自身、気候変動危機の被害者になっても国は知らない、あとは自助でと、生存権が脅かされる。人権を軽んじてきたことのツケを、これから私たちは払わなければならない。オランダの最高裁が去年、政府が気候変動対策を怠ることで国民を健康の危険にさらしているとする告発に対して、政府は気候変動の危機から国民を守る義務があるとの判決を下した。世界的には、そういう規範ができつつある。ただ、日本にも希望はある。映画『MINAMATA』が伝えるように、1970年代を中心に公害裁判が全国で闘われ、権利を勝ち取ってきた歴史がある。この歴史を思い起しながら、気候変動対策も闘って実現しなければならないし、それは可能だと考える。
福島 日本では経済成長や大企業の利益が、前提になってしまっている。資本主義を規制するという考え方がない。
斎藤 そこに切り込まないと、根本的な気候変動対策はできない。大企業のロジックに断固として立ち向かう必要がある。再生可能エネルギーだけで何とかなるような状況ではない。
コモンズの復権
福島 「コモンズの復権」を提唱しているが。
斎藤 公共性を意味する「コモンズ」を今、復権しなければならない。なぜか。日本は、医療や教育、住居、介護など、生活に必須の費用が、ほとんど自己負担。それをかろうじて可能にしていた終身雇用と年功賃金が、今や崩れている。学生たちはバイト漬けで、勉強よりもある種の労働者としてのメンタリティを身につけさせられる。若者たちが抱いているのは、「親ガチャ」という言葉がはやるぐらい、未来を描くことができない社会の閉塞感だ。この状況を変えるために、教育はじめ社会的に必要性の高い部分の無償化を進め、社会全体で負担する発想を取り戻したい。コモンズの領域を、無償化を通じて組み立て直す。財源は、金持ちや大企業への課税強化で確保する。当然、抵抗は激しいだろう。しかし、そんな思い切った政策を提言し、実行していく覚悟が問われている。
福島 社民党もパラダイムシフトにつながる大胆な提案を、人の心に響く柔らかい言葉で届けていきたい。(文責は編集部)
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