脱炭素社会と気候正義を〜温暖化対策は待ったなしの最重要政策〜
(『社会新報』2021年12月15日号1面より)
温暖化対策は、今、日本が取り組むべき最重要政策と言える。なぜなら、温暖化対策は、地球環境のためであると同時に、エネルギー政策や災害対策、地方経済、農業の再生などを包括的に含むものであり、かつ緊急性が高いからだ。ただ、先の衆院選でも、温暖化対策は大きな争点とはならなかった。政官財とマスコミの認識があまりにも遅れているからである。だが、脱原発と共に脱炭素社会の実現へのかじ取りは待ったなしだ。
菅義偉政権から「2050年カーボンニュートラル」目標を引き継いだ岸田文雄政権であるが、岸田首相は温暖化対策というものを全く理解していないのではないか。例えば、今年9月の自民党総裁選での討論会で、岸田首相は温暖化対策として国の政策には具体的に触れなかった一方、「電球であってもLED電球なら電力使用量は4分の1」「シャワーとお風呂、比べてみると格段、お風呂の方がお湯の使用量は少ない」と個人としてできる取り組みを強調した。
だが、日本の温室効果ガス排出の8割以上がエネルギー由来であり、日本の電力構成の約7割が火力発電である中で、LED電球やお風呂というレベルの話ではなく、石炭や石油、天然ガス等の化石燃料に依存した経済を、太陽光や風力等の再生可能エネルギー中心のものに変革する必要があるのだ。
麻生太郎自民党副総裁に至っては、今年10月の衆院選での応援演説の際、「温暖化で北海道の米はうまくなった」と発言。北海道の生産者の努力をないがしろにするだけでなく、全国の稲作で、デンプンの蓄積が不十分な白未熟粒や虫害の多発等の品質低下・収量低下が高温によって引き起こされているなどの被害を無視した許しがたい暴言だった。この暴言は、米誌『ニューズウィーク』や英国の歴史ある日刊紙『タイムズ』、世界的な通信社『ブルームバーグ』も取り上げている。麻生氏暴言は、単に「日本の恥」というより、そのまま日本という国のレピュテーションリスク(信頼低下による損害リスク)にも発展しかねない。
岸田演説に「化石賞」
COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、岸田首相の演説は「温暖化対策に後ろ向き」として国際NGO「気候行動ネットワーク」から不名誉な賞である「化石賞」に選ばれた。「気候正義」(メモ)とは真逆の岸田首相の姿勢が厳しく問われたのである。
岸田首相の「既存の火力発電をゼロエミッション(排出ゼロ)化する」という主張が、その選定理由だ。火力発電の排出ゼロに関しては、CO2を地中に埋めるCCS(二酸化炭素回収・貯留)が検討されているが、火力発電所からの大量排出に対応できるような施設は世界的にもまだ存在しない。
石炭にアンモニアを混ぜての混焼も、CO2が大量発生することには変わりない上、仮に火力発電施設でアンモニアのみの専焼を行なったとしても、そもそもアンモニアを化石燃料からつくる際にCO2が発生する。再生可能エネルギーを使って生産した「グリーンアンモニア」は今後、船舶の動力源など電化が難しいものでの燃料として有望かもしれないが、発電ならば再エネをそのまま使用した方がいい。
岸田首相周辺や日本のマスコミは、ことあるごとに「地理的な制約を考えると、一気に再エネにかじを切るわけにはいかない」「日本は平地の面積が狭く、太陽光パネルを置く場所がない」と主張するが、これは事実ではない。
再エネの可能性は大
環境省の報告書(「令和元年度再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書」)によれば、農地と共存し耕作放棄地を活用する太陽光発電、いわゆるソーラーシェアリングは、理論上、日本の総電力需要に対応するポテンシャルがあるとされている。しかも、農業を行ないながら売電利益も見込めるため、農家の収入を倍増させ、雇用を生み、低迷する地方経済を立て直す効果も期待できる。それ以外にも、例えば、陸上・洋上風力のポテンシャルは極めて大きい。むしろ、「地理的制約」などよりも、既存の化石燃料を使った火力発電施設に固執する大手電力への配慮こそ、日本が石炭火力発電から脱却できない理由であろう。
これまでの基準では「数十年に一度」とされる規模の豪雨に毎年のように襲われるなど、日本はすでに異常気象の猛威にさらされ、多くの人々が被害に遭っている。そしてそれが、温暖化の影響であることは、気象庁も認めていることだ。グレタ・トゥーンベリさんら世界の若者に続き、気候危機に、声を上げる若者たちは日本でも現れ始めている。温暖化を気候危機、生存の問題として、あらゆる立場の人々が「変われない日本」を変えていくために力を結集していくことが、今、必要なのだ。
気候正義(Climate Justice)先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行なうことによって、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の方が気候変動の被害を被っている不公平さを正していこうという考え方。
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