社会新報

【主張】原発への武力攻撃~核と人類は共存できないことの再確認を~

(社会新報2022年3月23日号3面より)

ウクライナに侵攻したロシア軍が、原子力施設を攻撃している。侵攻直後にチェルノブイリ原発を制圧し、3月4日には同国南部のザポロジエ原発を支配下に置いた。さらにロシア軍が南部ミコライウ州の南ウクライナ原発へも進軍中と伝えられている。ロシア側に電力インフラを掌握する以上の思惑があるのかは分からないが、原発を武力で攻撃して支配することは、地球環境と人類の存在を脅かす前代未聞の暴挙である。ロシアは原子力施設への攻撃と占拠をただちにやめ、管理をウクライナに戻すべきだ。
 ザポロジエ原発への攻撃によって火災が発生し、大混乱する施設内の映像が伝えられている。原子力施設内で砲弾が飛び交う事態は、恐怖としかいいようがない。原子炉を冷却する設備が壊れれば、福島第1原発のような炉心溶融を招く可能性があり、放射性物質が地球上に拡散するおそれもある。ウクライナの原発の安全は、ただウクライナやロシアだけの問題ではない。全地球の問題と認識しなくてはならない。
 これまでのところ破滅的な事態には至っていないようだが、ザポロジエ原発で外部からの電源供給や通信が断たれたり、チェルノブイリ原発の要員交代が滞っているとの情報もあり、安心はできない。原発はジュネーブ条約が保護を義務づけた「危険な力を内蔵する工作物」に当たる、絶対に攻撃してはならない対象だ。そもそも武力侵攻自体が明確な国際法違反であるが、原発への攻撃は二重三重の意味で不法行為であり、言語道断である。
 今回の事態を受けて、日本でも原発を抱える自治体や住民から不安の声が上っている。すでに福島第1原発事故で原発の「安全神話」は崩壊しているが、そもそも戦争や武力攻撃を受けることは、想定すらされてこなかった。日本の国土に今なお33基の原発が存在しているが、武力紛争やテロにさらされたどうなるのか。ロシアの原発攻撃は原子力の危険をあらためて浮き彫りにしたといえる。
 そんな中で日本維新の会は、電力価格高騰対策として原子力規制委員会が定めるテロ対策設備の完成前の原発も含めた再稼働を要求した。とんでもない時代錯誤である。原発の制御を失えば、国境の隔てなく人類は傷つけられる。ロシアの原発危機を見て、「核と人類は共存できない」ことを、あらためて再確認するべきだ。

社会新報ご購読のお申し込みはこちら