社会新報

【主張】海に流す以外の代替案の検討を-原発汚染水の海洋放出

(社会新報2021年4月28日号3面《主張》より)

 

4月13日の政府関係閣僚会議で、東京電力福島第1原発から生じた汚染水を海洋に放出する方針が決まった。

福島第1原発では事故処理がある程度、落ち着いた後も、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための注水が続いており、1日140トンもの放射能汚染水が発生し続けている。この汚染水は放射性物質を除去する装置(ALPS)で処理された上で、原発敷地内のタンクで保管されているのだが、これを薄めて海に放出するというのだ。

処理後の汚染水には、化学的性質が水素と同じであるため除去が難しいトリチウムが残されている。またヨウ素、セシウム、ストロンチウムなど12種類ほどの放射性物質も残っているという。政府は「トリチウムが放出する放射線は弱い」「自然界にも存在する」「通常の原発でも基準を満たせば海に流している」などとして、海洋放出を正当化し、30~40年程度かけて、海水で薄めて海に放出する計画だ。

しかし、そんなバカな話があるか? 確かに膨大な海水で薄まれば、毒性はごくごく薄まるだろう。しかし放射能がなくなるわけではない。だからこそ放射性物質は環境から隔離して集中管理するのが大原則なのである。

「国の基準以下の濃度に薄めれば安全」という理屈が成り立てば、そもそも放射性物質も、すべての有害物質も、管理する必要がなくなってしまう。大量の大気や海水で薄めれば安全だというなら、全部垂れ流して、どんどん攪拌(かくはん)すればよいだけではないか。

このような方針決定に、風評被害を懸念する漁業者ら住民が強く反対するのは当然だ。

福島県内では、59市町村のうち41市町村議会が海洋放出に反対・慎重の意見書や決議を可決し、反対署名は44万筆を超えた。さらに海でつながる諸外国からも、強い懸念の声が上がっている。これらの声を無視して海洋放出を強行することは、到底許されることではない。

すでに専門家からも、「大型タンクによる長期安定保管」や「モルタル固化処分」など、海に流す以外の代替案が提案されているが、国や東電が真剣に検討した形跡はない。
安易な海洋放出決定ではなく、陸上保管や分離処分での減衰対策を基本に、代替案の検討を真剣に急ぐべきである。