(社会新報1月18日号1面より)
安保3文書の改定が昨年12月16日の閣議で決定された。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、2023年度から5年間の防衛費を43兆円とし、現行計画の1・5倍以上に増額させる方針を明確にした。専守防衛からの大転換だ。社民党の福島みずほ党首とジャーナリストの布施祐仁さんが先ごろ、オンラインでこの問題について対談した。
◇
冒頭、福島党首は、敵基地攻撃能力の保有や防衛費大幅増を盛り込んだ安保3文書の改定について、「2015年の安保関連法の強行採決級のインパクト」と語り、布施さんに今回の改定について解説を求めた。
布施さんは「昨年5月のバイデン米大統領との会談が、安保3文書改定の布石となっている」とし、「米国が警戒する中国のミサイルに対し、あらゆる選択肢で対応することや、防衛費の相当な増額をこの時点で約束していた」と指摘した。
中国は本当に脅威か
布施さんは、そもそも安保3文書改定は、日本の安全保障よりも、米国の世界戦略のためだと読む。「バイデン政権の国家安全保障戦略で、中国を『国際秩序を変える意図、それを推進するための経済力、外交力、軍事力、技術力を持った唯一の競争相手』とし、『競争相手を打ち負かす』と対抗意識を鮮明にしている。米国が中国に対する優位性を保つ上で重視するのが、米国一国ではなく、同盟国の力を借りること」と語り、安保3文書もこれに沿ったものだとした。
布施さんは「岸田政権の大軍拡も『中国の脅威』を最大の理由として進められようとしているが、本当に中国は脅威なのか」と疑問を呈し、次の通り語った。
「ロシアがウクライナにしたように中国が日本の領土、例えば九州を併合するか。そうした動きはない。唯一あるのは尖閣諸島。領有権を日本、中国双方が主張しているが、現状、日本が実効支配している。中国も公船を尖閣諸島周辺に送っているが、一方で、中国軍と自衛隊のホットラインを設け、偶発的な衝突を回避することで日中は合意。中国も日本と戦争したいわけではない。では、何が脅威かと言うと台湾有事。ただ、中国は基本的には台湾との平和的統一を目指している。台湾が独立を強行すれば武力を使うとしているが、台湾の現政権のスタンスは現状維持。台湾有事が起きる可能性は低い」
福島党首は「日本は中国との貿易が25%程度。中国との戦争で日本が失うものはあまりに大きい」と懸念を表明。
米軍産複合体の要求
布施さんもこれに同意し、「冷戦後、多くの共産主義国が崩壊した中、中国が存続したのは、市場経済を導入し貿易を行なってきたから。その中国の貿易相手は、1位が米国で、2位がEU(欧州連合)、3位が日本。戦争は中国にとっても共産党政権自体が危うくなる自殺行為」と述べ、「中国の脅威」があおられている背景には、「軍産複合体を維持するには、『巨大な敵』が必要」という米国の事情を語った。
現実には、中国が日本を攻撃することは考え難いが、なぜ、岸田政権は5兆円もかけて中国本土に届くミサイルを1000発も確保しようとするのか。
布施さんは「米国はINF(中距離核戦力全廃)条約で、中距離ミサイルを破棄したが、対中国で、再び中距離ミサイルを持ち、アジアに配備するとしている、岸田政権も米国の計画に追従している」「くだらない軍拡競争に日本が付き合うことでしかない」と批判した。
事実上の先制攻撃へ
日米の対中国包囲網のリスクについて、布施さんは「対中国で日本は結局、米国の情報に頼らざるを得なく、事実上、米軍の指揮下に自衛隊が組み込まれる。米国の間違った情報で、日本が中国に対して敵基地攻撃能力による事実上の先制攻撃を行なう恐れもある」と懸念。
福島党首も「沖縄本島にミサイル配備を行なうことは、当然、沖縄が攻撃目標にされることになるし、台湾有事では、各島々を米軍の拠点にするとされる南西諸島も、戦争に巻き込まれる。その一方で、住民の避難を、国は自治体任せだ」「先日も自衛隊と米軍の共同統合演習キーン・ソード23が実施され、日本が戦場になるような戦争の危機を高めるようなことばかりしている」と危惧した。
福島党首は軍事費急増の財源確保で福祉などが削られることも懸念。「予算委員会で財源はどうなるのかと政府側に聞いても、まともに回答がない。消費税増税や社会保障費などの削減が行なわれるのではないか。軍拡競争で経済もおかしくなることが心配だ」と述べた。(文責・編集部)
【略歴】布施祐仁(ふせ・ゆうじん) 1976年生まれ。フリーランスのジャーナリスト。単著に『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)、共著に『日報隠蔽』(集英社)など。
メモ 【安保3文書】「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」からなる国の安全保障の方針や具体的な計画をまとめたもの。政府は昨年1~7月に有識者会合を17回開催したが、非公開で議事録を作成しなかった。9~11月に外務・防衛両省幹部OBでつくる有識者会議も非公開で4回開催され提言をまとめ、10~12月に自民、公明両党の実務者協議(15回)も密室で政府素案を了承。12月16日に3文書改定を閣議決定。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記し、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1・5倍以上に増額させる方針を明確にした。専守防衛からの大転換だが、国会審議は皆無だった。
社会新報ご購読のお申し込みはこちら