社会新報

【主張】熱海の土石流災害 避難指示は「空振り」を恐れず発令を-「盛り土」崩壊は人災だ-

(社会新報2021年7月14日号3面《主張》より)

 

7月3日午前、静岡県熱海市伊豆山で土石流が発生した。黒灰色の土砂が家屋をのみ込み、ごう音を立てて斜面を流れ落ちていく。

被災の傷痕は深く、8日時点での被害状況は、死者9人、安否不明者22人、流された家屋は130棟に上った。警察や消防、自衛隊の懸命の救助活動が続いたが、今なお行方不明者がおり、捜索に全力を挙げてほしい。

自治体の避難情報は今年、最高のレベル5(緊急安全確保)、レベル4(避難指示)、レベル3(高齢者等避難)など5段階に整理された。気象庁は2日、レベル4に引き上げる目安となる土砂災害警戒情報を出したが、熱海市は「雨のピークは過ぎた」としてレベル3に据え置いた。同市がレベル5を発令したのは土石流発生後だった。

被災現場周辺は、静岡県が「土石流危険渓流」に指定しており、熱海市のハザードマップでも土石流の可能性が高いと指摘していた。

現場を含めた熱海市一帯が溶岩の上に火山噴出物が堆積した土地で、崩れやすい地質である。さらに土石流被害が拡大した一つの要因は、最上流付近の盛り土が膨大な雨によって崩落したことだ。盛り土は土砂を人工的に固めたもので、山が膨大な水を吸い込み切れずに噴き出し、盛り土を押し流した。人災とも言える。

情報を総合的に踏まえれば、早めにレベル4以上に引き上げる判断をすべきだった。なぜ、判断のタイミングを逸してしまったのか、今後の検証が必要だ。

避難指示を出すケースが増えると、実際にはそれほど被害が生じない「空振り」も多くなる。そのため、自治体が発令に慎重になりすぎるとの懸念も指摘される。だが、自治体は「空振り」を恐れず、発令をためらってはならない。

社民党は総選挙の政策として、「避難指示の発令基準を明確化し、『空振りを恐れず早めに出す』との方針を徹底するとともに、地域住民への防災情報の伝達・提供の迅速化・確実化を図り、国と自治体の連携を強化する」と打ち出している。その上で「アメダスや監視カメラ、土石流センサー等を各自治体にきめ細かく設置し、観測・予測体制について一層の精度向上を図る」と強調している。

近年、梅雨末期の時期に豪雨災害が各地で頻発している。国と自治体には、命を守る対策を最優先にしてもらいたい。そのために社民党も柔軟な政策提言を続けていく。

 

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