(社会新報9月26日号1面より)
昨年12月24日に沖縄本島で16歳未満の少女が在日米軍兵士から性的暴行を受けた事件(以下、「昨年12月事件」)とそれへの日本政府の対応に、批判の声が巻き起こっている。
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経緯は以下のとおり。
沖縄本島中部の公園で、同少女が面識のない在沖縄・米空軍兵長(25)から誘われて車に乗ったところ、同米兵の自宅に連れ込まれて性的暴行を受けた。
沖縄県警は容疑者を特定し、米軍側に照会。県警は今年3月11日に同米兵を書類送検。27日に地検はわいせつ目的誘拐と不同意性交の容疑で起訴。同日、米兵は日本側に引き渡された。
起訴段階で警察庁は同案件を外務省に伝えたが、防衛省などには伝えず、沖縄県には伝わらなかった。
6月25日になって、報道各社の取材により同事件の存在が明るみに出た。
また、今年5月26日に沖縄県内で起きた米海兵隊員による女性に対する性的暴行事件に関しても、逮捕・起訴の事実などが同県に伝わらず、6月28日に報道で初めて明るみに出た。
同月16日には名護市辺野古の新基地建設問題が最大の争点となった沖縄県議選の投開票が行なわれており、「選挙への影響を恐れて国側は諸事件を隠蔽(いんぺい)したのでは」などと疑念と批判の声が噴出している。
「被害者保護」の言い訳
9月13日、参院議員会館講堂で「沖縄で相次ぐ米兵による性犯罪事件 隠蔽した日本政府の責任を問う」と題する省庁交渉と院内集会が「基地・軍隊はいらない4・29集会実行委員会」の主催で行なわれた。約230人の参加者で会場は満席になった。
省庁交渉には、警察庁・外務省・防衛省・法務省の計9人の担当官が出席し、市民側と質疑応答を行なった。市民側の事前質問に対する国側の文書回答のうち、重要部分は以下のとおり。
外務省は「昨年12月事件」について防衛省に情報提供しなかった理由として、「捜査当局から、非公表の事案であるとして共有を受けた」と回答した。
1997年に日米間で取り決めた「在日米軍に係わる事件・事故発生時における通報手続き」が機能していないとの市民側の指摘に対し、外務省は「昨年12月事件」において同「通報手続き」の「趣旨・目的は達成されていた」と対応を正当化した。
市民側からの「国は情勢変化などを理由に同『通報手続き』における『新しい運用』(今年7月23日)を打ち出したことによって、情報隠蔽を正当化しているのでは」という旨の質問に対しても、外務省などは「SNS等の情報発信ツールの発達によって(略)リスクがより一層高ま」り、「被害者のプライバシーや心情、二次被害の防止に配慮する要請が増してい」るとして、一連の国の対応を正当化。
こうした国側の回答に対し、市民側からは「被害者のプライバシー保護を情報隠蔽の口実にしている」などと反発の声が続出した。
日米軍事一体化が根源
引き続き、同会場で院内集会が行なわれた。最初に、省庁交渉の報告が行なわれた。
続いて、省庁交渉に参加した伊波洋一参院議員(沖縄の風)が、「台湾有事など(の可能性)を名目として日本全国で米軍の演習が始まっており、これから日本で米兵が増えていく」として、「今後予想される米兵によるさまざまな事件を予想しての(性暴力被害者のプライバシー保護を名目にした)新しい通報態勢だ」と政府の狙いを指摘した。
沖縄で性暴力被害者の支援などを続ける高里鈴代さんは、「社会全体の意識を『性被害に遭った人は悪くない』という方向に変えていかなければ、国が『被害者のプライバシーを守る』ことを口実に(都合の悪い)情報を隠蔽する動きはなくならない」と訴えた。
真の目的は米軍保護
この後、首相官邸前で街頭行動が実施された。
最初に、省庁交渉と院内集会の報告が行なわれた。
続いて、約200人の参加者は「米兵による性暴力を許さないぞ」「米軍の性犯罪を隠蔽するな」「日本政府は責任をとれ」などとコールを繰り返した。
高里さんはここでもマイクを握り、「国は口では『被害者の保護』を言いながら、実は『米軍駐留の保護』『日米安保の保護』を目的にしている」と国の真の狙いを指摘した。