(社会新報2022年4月20日号1面より)
大阪府では、大阪湾を有害物質を含む産業廃棄物で埋め立てて夢洲(ゆめしま)という人工島を造り、そこにカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致する計画が強行されている。3月25日、その是非を問う住民投票請求のための署名運動が始まった。大阪の未来は大阪府民で決める。そう訴える2ヵ月だ。
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運動が始まって最初の1週間、地元・北摂地域の駅頭や商店街などで署名を呼びかけたが、カジノ問題そのものを知らない方が多いという印象を持った。庶民が知らされても望んでもいない政策が、一方的に推し進められていること自体が大問題だ。
大阪の署名運動について、全国的関心が低すぎると危惧している。カジノを含むIR建設計画は「国策」であり、現在の日本社会の構造悪が詰め込まれている。もっと注目されるべきではないか。
辺野古工事と類似点
特に強調したいのが、大阪・夢洲のカジノ問題と、沖縄の辺野古新基地建設問題との類似である。もちろん、辺野古新基地建設は日本政府が沖縄に押しつけている問題である一方、カジノは府民自ら選んだ維新政治の問題だという差異は無視できない。しかし、辺野古とカジノとには酷似した部分が複数ある。
第1に、民主主義の破壊だ。カジノをめぐっては住民説明会やパブリックコメントで多数の反対意見が寄せられた。辺野古に関しては2019年2月24日の県民投票で7割が反対票を投じた。多くの市民がすでに反対の意思表示をしているのに、権力者は説明・応答責任を放棄し、数の暴力で計画を強行する。これは非民主主義的強権政治だ。ドローン規制法に加え、今年重要土地規制法も施行されるので、いざ工事が始まれば、その監視行動は徹底的に監視・弾圧される恐れが強い。
夢洲も軟弱地盤工事
第2に、技術上実現不可能の前代未聞の工事だ。辺野古新基地も、夢洲も、マヨネーズ並みの軟弱地盤を埋め立てる計画だ。夢洲は液状化・地盤沈下対策に少なくとも790億円かかるとされる。辺野古の場合、軟弱地盤に加えて2本の活断層まで走っており、政府の地震調査委員会は南西諸島海溝でマグニチュード8級の地震があり得ると評価し、高さ30㍍の津波まで予測している。台風や大地震等の自然災害は免れないと判っているのに、無理な埋め立てを強行することは、人間が自然を支配・制御する能力を過信している。
第3に、環境破壊だ。夢洲のカジノ建設予定地は絶滅危惧種コアジサシの繁殖地であり、辺野古・大浦湾はジュゴン・アオサンゴなどの絶滅危惧種が262種棲息する日本唯一の「ホープスポット」だ。生物多様性を破壊し、「海の豊かさを守ろう」というSDGsにも反する工事は、国際的非難を避け得ない。
第4に、工事の名称が詐欺的だ。大阪府市の政治を牛耳る維新は、カジノを「統合型リゾート」と呼び、あたかも「夢洲」が大阪におけるディズニーランド的存在になるかのように演出しているが、その収入の8割は賭博から来る。市民を依存症に陥れる施設に、「夢」など皆無だ。政府は辺野古を「普天間代替施設」と呼ぶが、2月15日の会見で松野官房長官自ら認めたように、滑走路・弾薬庫・軍港を揃え、海兵隊のみならず陸上自衛隊水陸機動団まで使用する辺野古は明らかに「新基地」だ。
ギャンブル依存加速
カジノは「不治の病」とされるギャンブル依存症を広め、家族分断・借金地獄・社会的孤立等の問題を生む。庶民の生活を破壊して投資家・サラ金業者など一部の利権集団が富をむさぼるカジノは、人々の命・町・自然を破壊し続けることで軍需利権が甘い汁を吸う戦争と同じくらい非人道的な「死の産業」だ。いま政治がなすべきことは、コロナや経済的困窮から人々の命と暮らしを守ることではないのか。
大阪の維新政治の問題は、辺野古新基地建設・自衛隊南西シフト・ロシアのウクライナ侵攻に乗じた憲法改悪策謀など、日本全体における民主主義・立憲主義の崩壊と全く同じ構造を持つ。大阪での署名運動は、強権政治の内実を広く市民に問題提起し、抗議の声を高めるための草の根の運動で、単なるカジノ反対運動以上の意義を持つ。
憲法改悪勢力は今夏の参院選で勝利し、その後国政選挙がない「黄金の3年」で憲法改悪論議を一気に進めるつもりだとされている。憲法審査会も動き出し、核兵器共有や敵基地攻撃論が平然と語られる今、草の根の民主主義運動を全国で育み、市民が「憲法を活かす政治」を取り戻すことが急務だ。それが、参院選に向けた「市民と野党の共闘」にもつながる。大阪の署名運動は、その一例になる。
この署名運動に「大阪府民のための運動」以上の意義を見出し、注目・後押しをお願いしたい。
「住民投票を求める会」のウェブサイトはhttps://vosaka.net/
↑大阪府茨木市内の阪急通りで署名運動を行なう市民たち(4月2日)。
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