(社会新報2022年6月15日号3面より)
5月19日、参院議員会館で、リベラル政治勢力を支援する識者団体「共同テーブル」の主催する「経済安保法の危険な本質を暴く」と題したシンポジウムが開催され、オンラインも含め約200人が参加した。
5月11日に成立した経済安全保障推進法(以下、経済安保法)とは、岸田政権の目玉政策の一つで、①サプライチェーン(供給網)の強じん化②基幹インフラの安全性・信頼性の確保③先端的な技術分野の官民協力④特許の非公開制度の4本の柱からなる。その本質は、先端技術分野などで急成長を遂げている中国に対して、米国が自らの覇権を維持するため中国排除の政策を徹底し、これに日本も追随させる内容だ。
司会を務めた杉浦ひとみ弁護士は「正体の分からない経済安保法がすでに成立してしまったが、法律は改正も廃止もできる。あきらめず闘おう」と語った。
主催団体の共同テーブルを代表して佐高信さんがあいさつし、「経済安保の推進者は、あのいかがわしい甘利明氏。経済安保ではなく政権維持安保、もしくはアメリカ追随安保。政治が経済にアラームを鳴らす。新たな3Aだ」と批判した。
服部良一幹事長も参加し、「安保を言うなら、まず食料安保だ。食料自給率のアップこそ」とあいさつ。
大川原化工機事件で公安警察が暴走
次にジャーナリストの青木理さんが、月刊誌『世界』3月号のルポ「町工場VS公安警察」で取り上げた大川原化工機事件の概観を振り返った。
まず大川原化工機について「横浜市に本社を置く従業員90人程度の化学機械メーカー。製作する噴霧乾燥機は国内シェア7割を占める。戦後の技術力を下支えした町工場の典型的存在。年間売り上げ約30億円規模が、不当捜査にコロナも相まって、約20億円まで減少した」と説明した。
警視庁公安部による不当捜査の経緯をこう批判した。「公安部の捜査が大川原化工機に忍び寄ったのが2017年春から。18年10月に初めて家宅捜索。大川原正明社長に40回もの事情聴取、専務や営業担当役員も含めて任意の事情聴取は260回に及んだ。ついに20年3月に社長ら3人が逮捕された。容疑は、生物兵器の製造にも転用可能な噴霧乾燥機を経産省の許可もなく中国に不正輸出したという外為法違反。強引で偏見に満ちた見込み捜査。人質司法の悪弊で、社長らは1年間、勾留された」
実際には噴霧乾燥機の輸出に関しては13年に規制が強化され、大川原化工機も経産省などのヒアリングに応じ、全面協力していた。
公安警察が新たな存在理由を求める
不当捜査の結末はどうだったのか。「検察が初公判の寸前に起訴を取り消すという異例中の異例の展開。公安部と検察は白旗を上げ、すごすごと退散した」。
青木さんは公安警察について「すでに歴史的な使命は終わっている。公安警察に『反共』というレゾンデートル(存在理由)が無効となった現在、『経済安保』という新たなレゾンデートルを求めて暴走を始めた」と締めくくった。
次に、海渡雄一弁護士が、国会で参考人として経済安保法に警鐘を鳴らした坂本雅子名古屋経済大学名誉教授の論文『米国の対中国・軍事・経済戦の最前線に立つ日本』(『経済』6月号)を紹介した。
「この論文を読んで驚いた。今回の経済安保法は、2021年4月16日の菅首相・バイデン米大統領による日米首脳共同声明が法律になっただけのことだという。米国の国防権限法889条は取引禁止企業として中国のファーウェイなど5社を明記し、中国企業を締め出す。今回の日本の経済安保法はこの米国の法に呼応するもの。米国政府はなんとNTTなど日本企業6社に対して中国企業を排除するよう圧力をかけたと報じられた。これは5G技術をめぐる米中の経済戦争。この戦争で日本を米国に付き従わせるものだ」
その上で海渡弁護士は「中国がさまざまなものを日本に輸出しない経済的報復になだれ込むだろう。日本経済は火だるまになる」と危機感をあらわにした。
国会の参考人として同法の危険性を指摘した井原聰・東北大学名誉教授は、「そもそも経済安保の定義を岸田首相に尋ねると『ありません』と答弁する。同法に経済安保の定義が明記されて
いない。政省令の138項目を法成立後に決めるというとんでもない内容だ」と厳しく批判した。
そして井原さんは「政治が技術や科学に口を出すのは時の政権におもねる研究に陥る危険性がある。科学者が軍事研究に動員されかねない」と軍事研究の加速を懸念した。
社民党が談話「法の運用を厳しく見守る」
社民党は、同法成立の日に談話を発表し、「政府の企業への介入が自由な経済活動を萎縮させる懸念や、政官業の癒着、科学技術の軍事化が進み、研究活動を制約する恐れ」があると指摘し、「法の運用を厳しく見守る」との立場を表明した。
↑(左から)井原、海渡、青木、佐高の各氏(5月19日、衆院第2議員会館)。
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