社会新報

福島党首と斎藤幸平さんがオンライン対談 コモンの未来を語る ”競争”から”共創”へ~問われるのは、社会を変える想像力とビジョン~

(社会新報2022年3月2日号1面より)

 

福島みずほ党首と『人新世の「資本論」』の著者・斎藤幸平さんが2月5日、「コモンの未来を話そう」と題してオンラインで対談した。

システムチェンジ待ったなし

 福島みずほ党首 斎藤さんは、社会を変えるには「別の社会」を思い描く想像力が必要と指摘している。

 斎藤幸平さん コロナは気候変動などの本格的な危機のリハーサルでしかない。新自由主義を続ければ、人間社会は崩壊する。生存のためには、社会のシステムチェンジが待ったなしだ。ただ、現状とは「別の社会」を人びとが希望として思い描けないと、新しいアクションは起きない。

 福島 困窮者支援の現場でも、多くの人が自己責任論を内在化させていて、悪いのは全部自分だと思い込ませられている。政治や社会を変えたい、変えるという方向には、なかなかいかない。

 斎藤 自己責任論は一つの壁だが、さすがにそれだけでは済まなくっているのがコロナ禍での大きな変化だ。新自由主義の半世紀近く、小さい政府、市場任せ、民営化がいいと、貴重な公共財産が売り飛ばされ、人材も削られてきた。でも、コロナ禍のような危機にあっては、国家・公的機関が介入・関与せざるを得ない。コロナを転機に、新自由主義は一つの終わりを迎えたのかもしれない。

 福島 公の部分の復活があるとして問題はその中身。何がポイントか。

“共創”のコモン型社会へ

 斎藤 世の中には、自然環境やライフラインをはじめ、人が生きるための基盤、市場任せにはできない領域がある。それがコモンだ。コモンを市民・住民自身が維持管理していく営みを発展させる。その営みを通じ、人々が社会の主体としての力を取り戻す。そんなボトムアップ型の民主主義を育てることが重要だ。

 福島 イメージは宇沢弘文さんが社会的共通資本(メモ)と名付けた部分の、市民・住民による自主管理。

 斎藤 〝競争〟の新自由主義から、私がコミュニズムと言うこともある”共創”のコモン型社会への転換。自分たちの命に関わることを、国や市場、一部の政党・政治家に委ねずに、市民自身が管理する。まずは地域の活動、社会参画に、みんながもう少し時間を使う。現実化の条件は余裕・余暇の拡大。私は週休3日制を唱えている。

 福島 ゆとりがないとジェンダー平等も進まない。

 斎藤 労働時間短縮で、男性も子育てや家事などにコミットできる。企業利益優先の価値観を転換させていかないと。

 福島 欧米では、地球や未来を守るには脱成長やシステムチェンジが必要という考えが、若者の間でナチュラルに受け入れられ、左派への支持も広がる。日本はそういう状況にはない。

閉塞感突き抜ける大胆なビジョンを

 斎藤 コロナとかの大問題が起きると、社会を支配していた既存の常識が揺らぐ。新自由主義の当たり前が当たり前でなくなる。でも、その時、左派にしっかりした対案がないと、社会はむしろ保守化する。そこが欧米に比べ、日本は弱い。状況を変えるのは、社会の閉塞感を突き抜ける大胆なビジョン、政策だ。

 福島 まさに、私たち社民党にも突きつけられている課題。原点から見つめ直す必要がある。

 斎藤 社会主義志向を明言するピケティ(メモ)が言っている。〝左派やリベラルは自分たちの起源を思い出せ。そもそも抑圧された人々、労働者階級の解放のための運動、政党ではなかったのか。それが今は、ある種のエリートの運動になってしまっている。だから自分は、そのオリジンを取り戻しにいくのだ〟と。誰に向いて政治をしているのか、何を目指す運動なのか、自戒を込めて考えたい。

 福島 私たちの社会民主主義と斎藤さんのコミュニズム、その違いは何か。

 斎藤 社会民主主義だと、福祉国家的なものが連想される。資本主義の修正、新自由主義の手直しで問題は解決し、平等で持続可能な社会が実現するとして、モデルはスウェーデンだという話になる。けれども、スウェーデンの現実は決して持続可能ではないから、ネガティブなイメージを承知で、コミュニズムという言葉を使っている。思い描くのは、資本主義自体を超える社会。福島さんたちが目指す地平を経由して、その先にひらかれる、ある意味でユートピア。途中までほとんど一緒だ。

 福島 社会民主主義とコモン型社会は、とても親和性がある。ソーシャルデモクラティックのソーシャルがコモン、デモクラシーは、斎藤さんが強調する地域主義やボトムアップ、草の根の運動を通じて培われるもの。この二つを柱に次の社会へのビジョンと想像力を磨き上げ、みんなの心に響く言葉を届けたい。

 斎藤 グレタ・トゥーンベリさんが気候危機対策を訴えて一人で始めた座り込み。この行動に触発され、世界で数百万人の若者が立ち上がっている。日本でもできないとは思わない。頑張りましょう。

(文責・編集部)

 

 

宇沢弘文(1928~2014)

経済学者。社会的共通資本を、大気・水などの自然環境、社会的インフラ、教育や医療を含む制度資本の3領域に分類して捉えた。併せて、社会的共通資本が官僚的管理や利潤追求の対象とされるべきではないことを強調した。

 

トマ・ピケティ(1971~)

『21世紀の資本』の著者。2019年刊の『資本とイデオロギー』では、「資本主義の超克」を掲げ、資本主義の修正ではなく「参加型社会主義」を目指す意思を明確にした(『人新世の「資本論」』より)。

 

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