社会新報

法律家6団体などが市民集会~敵基地攻撃能力の危うい現実~安保3文書から見える日米軍事一体化

(右から)猿田弁護士、永山教授、布施さん(1月31日、衆院第一議員会館)。

 

(社会新報2月22日1面より)

 

 岸田内閣が昨年12月16日に行なった「安全保障関連3文書」(メモ参照)の閣議決定に反対する市民集会が、今年1月31日、衆院第一議員会館で行なわれた。
 社会文化法律センターなどで構成する改憲問題対策法律家6団体連絡会と、9条改憲NO!全国市民アクションが共催した。会場参加者は約100人で、オンラインでの参加者は約330人。3人の講師による基調講演が行なわれた。

米軍指揮下の自衛隊

 ジャーナリストの布施祐仁さんは、日米関係について次のように語った。
 「日本政府は今回の『3文書』で、米国と(安全保障面で)一体化すると初めて公然と示した」
 「米国は『中国との覇権争いに勝利する』『米国主導の国際秩序を維持する』ことを、安保戦略の最優先事項に掲げている。そのために強力な国家連合を構築し、同盟国の力を最大限に借りて中国との競争に臨むとしている。日本の安保戦略はまさに、米国の戦略に完全に整合させる形で作成されている」
 米国の思惑と日本の抱えるリスクについては、次のように語った。
 「米軍が2020年に米議会に提出した報告書によると、日本の九州から(沖縄本島を含む)南西諸島、さらに台湾・フィリピン・インドネシアまで連なる第一列島線上に、同盟国と共にミサイル網を構築するとしている。台湾有事を想定した軍備強化だ」
 「日本が敵基地攻撃能力を保有することの一番の問題は、自衛隊が米軍と一体運用され、米軍の指揮下で運用されることだ。岸田政権は、国民的議論はおろか国会での議論も経ずに、これを決めてしまった」
 「政府はこれまで『島しょ防衛のための自衛隊配備』と説明してきたが、いつの間にか『台湾有事に備えてミサイルを配備し、(いざとなれば)中国を攻撃する』と変化している。(南西諸島の)住民らは、捨て石にされるのではないかと懸念している」

平和的生存権の侵害

 永山茂樹・東海大学教授(憲法学)は、「戦争のできる国」化によって「憲法で保障された諸権利が制限される現実」について、次のように語った。
 「今回の『3文書』には、地方自治体の権限の制限(有事法制)、民間企業の経済活動への国家介入(経済安保法)、学術領域への国家介入(同)、国民のイデオロギー的動員(改正教育基本法)に関連する事項が、具体化されている」
 憲法前文の平和的生存権との関連については、次のように語った。
 「ミサイル基地を配備するということは、必然的に敵からの攻撃対象となり、周辺に暮らす人々の平和的生存権が侵害される。同時に、相手国に暮らす人々の平和的生存権も侵害する」
 新外交イニシアティブ(ND)代表で弁護士の猿田佐世さんは、NDの政策提言パンフレット『戦争を回避せよ』を引用しつつ、次のように語った。
 「軍事力を強めて抑止力に頼るだけでは、何かのきっかけで大戦争まで一気に広がるのを止められない」
 「中国は台湾を『核心的利益』と言うのだから、それを脅かさず、戦争の動機をなくすことが不可欠だ。中国に対しては、台湾に武力行使すれば貿易面などで破滅的な打撃を受けることを伝え、自制を促すべき」

在日米軍基地の制御を

 猿田さんは、日本がなすべき外交として、次のように語った。
 「米シンクタンクによる台湾有事シミュレーションによると、在日米軍基地を使えることが台湾有事での米側勝利のカギになる、としている。だが、在日米軍基地から米軍が直接出撃するならば、日本と事前協議をする必要があるはず。私たちは『在日米軍基地からの直接出撃は許さない』という運動を展開していかなければならない」
 「東南アジア諸国連合(ASEAN)は、米国と中国の間に立ち、したたかなバランス外交を展開している。日本は、東南アジア諸国などと連帯し、米中対立の緩和を呼び掛けていくべき」
 続いてオンラインで、今年1月に(日本最西端の)与那国島を訪れた飯島滋明・名古屋学院大学教授(憲法学・平和学)の特別報告が行なわれた。
 奄美大島と宮古島には、すでに自衛隊のミサイル部隊が新設された。石垣島と沖縄本島には、近いうちに配備される予定。与那国島にもすでに同レーダー部隊が新設され、ミサイル部隊の設置も計画されている。
 こうした現状を踏まえ、飯島さんは次のように語った。
 「ミサイル部隊が設置されれば、当然、相手国からの攻撃対象になる。(住民にとっては)平和的生存権の侵害になる。もし核攻撃や電磁パルス攻撃を受ければ、壊滅的な被害が予想される。だからこそ、戦争を回避するために平和的外交が必要だ」

      ◇ 
 (メモ)【安全保障関連3文書】国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書。
 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとし、防衛力・抑止力の強化が必要とした。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有も明記し、2027年度の防衛関連予算を現在のGDPの2%を目指すとした。
 米国との「軍事」一体化の方針も色濃くしている。反撃能力について「武力の行使の3要件に基づき」とあることから、「集団的自衛権の行使」も含まれる、と受け取れる。

 

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