社会新報

インボイスの何が問題なのか~軍事費捻出の消費税一網打尽策に反対

↑福島党首がインボイス導入に反対する連帯のあいさつをした(昨年10月26日、日比谷野音)

 

(社会新報1月25日号1面より)

 事業者に登録番号を振り、消費税の流れを明確にするインボイス制度が、今年10月から始まる。同制度は弱い者いじめとの声が強まっている。インボイスの何が問題なのか、元立正大学法学部教授(税法学)で税理士の浦野広明さんに寄稿していただいた。

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元立正大学法学部教授・税理士 浦野広明 
 消費税額は、〔Ⅰ(課税売上×税率)マイナスⅡ(課税仕入×税率)〕によって計算する。Ⅱを「仕入税額控除」という。
 消費税額の計算の方法は「帳簿方式」と「適格請求書方式」がある。仕入税額控除は、16年度税制改定において、2023年10月から適格請求書(インボイス)がなければ認められないとされた。インボイスは税法上の用語ではなく、消費税法では「適格請求書」と規定している。

免税業者あぶり出す

 インボイスには次事項を記載しなければならない(消費税法57条)。
 1,売主の氏名・名称及び登録番号 2,取引年月日 3,取引内容 4,税率ごとに合計した税抜又は税込対価・税率 5,消費税額等 6,買主の氏名・名称。
 税務署は税務署に登録をした消費税納税事業者にだけインボイスの発行を許可する。だから基準期間の課税売上高が1000万円以下の免税事業者は登録を受けられない。消費税の納税事業者は、インボイスが発行できない免税事業者と取引をしても仕入税額控除はできないから、免税事業者との取引は「お断り」ということになる。そこで免税除事業者はインボイスが発行できる課税事業者を志願せざるをえない。
 課税事業者になると、原則として、買主に適格請求書を交付し、その写しを7年間保存する義務が生ずる。
 消費税の申告納税と複雑なインボイスを発行する電算機購入やその維持費負担が生じる。さらにインボイス作成のうっかりミスを税務署が意図的に偽ったと判断すると、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこの両方が科せられる。
 こんな困難を甘んじなければならないのであろうか。それには法律の根拠を確かめる必要がある。重要なのは「税制改革法」の理解である。それによってインボイス地獄から抜け出すことができるのである。
 同法は、消費税法導入後の税制分野、とりわけ消費税の基本原則を明らかにしている。北野弘久教授は「税制改革法は憲法に準ずる準憲法的法律としての基本法である」と指摘している(『税法学原論』【第六版】青林書院)。

税制改革法の趣旨を

 税制改革法は次の規定をしている。
 「(消費税創設の)今次の税制改革についての国民の理解を深めるとともに、今次の税制改革が、整合性をもつて、包括的かつ一体的に行われることに資するほか、今次の税制改革が我が国の経済社会に及ぼす影響にかんがみ、国等の配慮すべき事項について定めることを目的とする」(1条) 「消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式によるものとし、その税率は、百分の三とする。この場合において、その仕組みについては、我が国における取引慣行及び納税者の事務負担に極力配慮したものとする」(10条2項)。
 端的に言うと、10条2項は、仕入税額控除はしなければならないとする規定である。また、同項は、取引慣行および納税者の事務負担に極力配慮するように述べている。事業者は現行の帳簿方式で、正確に仕入税額控除を算出して納付している。インボイスは帳簿方式という慣習をも侵している。
 政府はインボイスを強行する理由に「法律で決まっている」という。法を自己目的化するインボイスの虚偽性を知れば、「法律に書いてある以上それに従うべきである」という言説にだまされることはなくなる。
 要するに、消費税の仕入税額控除はインボイスの有無に関係なく行なわなければならないと税制改革法は述べている。インボイスがなければ仕入税額控除ができないという規定は訓示規定にすぎない(税務署願望)。インボイス制度は中止・形骸化しかあり得ない。すでに、立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社民党の4党は、22年6月10日、消費税減税と適格請求書(インボイス)制度廃止などを盛り込んだ消費税減税野党共同法案を衆院に共同提出している。
 自民党税制調査会顧問の甘利明前幹事長は、「将来の消費税(増税)も含め、地に足をつけた議論をしなければならない」と語っている(BSテレ東、23年1月5日)。とんでもない発言である。

総合累進課税で財源

 インボイスは巨額な軍事費の捻出に欠かせない消費税の一網打尽策であると同時に、全取引の国家管理とインボイスで売上増となる電子産業の膨大な利益確保である。
 社会保障の財源に心配はない。応能負担原則の中心に位置する法人税、所得税(相続税を含む)、住民税を総合累進課税にしただけでも、47兆3475億円の財源が生まれる。23年度予算の消費税の税収23兆3840億円がなくても財源は十分ある(不公平な税制をただす会編『福祉と税金』34号、2022年9月30日)。
 納税者は、今までも所得税の収支内訳書、法人税の事業概況説明書、マイナンバーなど悪法の形骸化運動を行ない、成果を勝ち取っている。
 その経験を糧にして、インボイスがなくても仕入税額控除は否認されないという解釈の正当性を勝ち取ることが、インボイス無効・不要化へのカギとなる。

■うらの・ひろあき 税理士、元立正大学法学部教授(税法学)。不公平な税制をただす会共同代表。著書に『税財政民主主義の課題』(学習の友社)など。

 

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