社会新報

イスラエル軍元兵士 ダニー・ネフセタイさんが語る日本国憲法9条論~石橋政嗣元委員長の非武装中立論に重なる

熱く語るダニー・ネフセタイさん。

 

(社会新報4月11日号1面)

 

 昨年末、私は『イスラエル軍元兵士が語る非戦論』(集英社新書)を出版した。埼玉県皆野町に住み、家具作りをしながら平和や人権についての講演活動を続けているダニー・ネフセタイさん(67)の聞き書きだ。(ルポライター・永尾俊彦)
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 ダニーさんは、イスラエルで「国のために死ぬのは素晴らしい」という愛国教育を受け、空軍パイロットの養成学校に入った。退役後、アジア放浪の旅に出て来日。日本人女性と結婚し、40年以上日本に住む。
 日本国憲法9条を知った時、ダニーさんは「軍隊を持たないなんて全く非現実的だ」と思った。しかし、イスラエルが2008年に345人の子どもを含むパレスチナの人々を無差別に虐殺したことから、軍隊を徹底的に疑い始める。
 日本人の連れ合いとの議論を通して、武器に頼ればより強力な武器を求めるようになってキリがなくなり、結局は平和にはならないと気づく。「武器による平和」という長年信じてきた考えはウソだったと悟る。そして、憲法9条の戦争放棄こそ平和をもたらすと考えるようになる。
 これは、日本社会党の委員長を務めた石橋政嗣さん(2019年に死去)が1980年に出版し、ベストセラーになった『非武装中立論』(日本社会党中央本部機関紙局)の主張と重なっている。
 同書で石橋さんは、軍事力とは「自己増殖」を続けるものであり、抑止力はほとんど無限に増強を続けなければ効果はないから、果てしない競争の泥沼にのめり込むと指摘している。
 イスラエルは毎年、GDPの5%も軍事費に使い、兵器を絶えず最新鋭に更新、米国からも強力な軍事的支援を受けて抑止力を高め続けているが、1948年の建国から現在まで、75年間も戦争が絶えず、いまだに平和は見えない。昨年10月にはガザ地区に侵攻。これまでに3万人以上もの死者が出ている。
 同書でダニーさんは言う。「他方、日本はどうでしょう。平和憲法のもと、憲法9条のもと、戦後78年間も戦争はなかったではありませんか。歴史が証明しています。答えは出ているのです。憲法9条の理想を実現させましょう」。

「対話能力」こそ必要

 他国からの攻撃が心配だという理由で「専守防衛」を肯定する人は多いようだが、政府はそこにつけ込み、軍拡に利用している。
 2022年末、政府は「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定、27年度には軍事費(防衛費)を22年度のGDP比約1%から2%(約11兆円)に倍増することや、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の保有も明記した。岸田文雄首相は、反撃能力は「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略」だとし、「専守防衛、これは堅持してまいります」と強弁した。
 しかし、石橋さんは『非武装中立論』の中で、1978年に当時の来栖弘臣統合幕僚会議議長が、「専守防衛、すなわち守る一方といったような概念はおよそナンセンス」と述べていることを紹介。「政府の本音は来栖発言そのものだ」と喝破している。その後の歴史は来栖発言を裏付け、今や敵基地攻撃能力も持つようになった。「専守防衛」がなし崩しにされていくのは、言わば必然なのだ。
 ダニーさんは、「絶対に戦争反対」か「条件付き戦争反対」かを読者に問いかける。「専守防衛」とは、他国に攻められた場合には軍事力を使うという条件付きの戦争反対だ。
 しかし、条件付きでも軍事力を認めればキリがなくなり、ついには戦争の泥沼に陥ることを、イスラエルや日本の歴史は教えている。
 だから日本国憲法は「絶対に戦争反対」、つまり武器ではなく「言葉を選んだのです」とダニーさんは説く。そして、求められているのは「敵基地攻撃能力」ではなく、「近隣諸国との対話能力」だと言う。言葉による信頼の醸成だ。
 石橋さんも同書で「信頼関係にまさる平和と安全はない」と書いている。戦中を生きた石橋さんと戦争の絶えない国から来たダニーさんには、憲法9条の精髄が、ハッキリ見えている。

 石橋氏の『非武装中立論』は長く絶版になっていたが、2006年にまんが原作者・批評家の大塚英志さんが明石書店から復刊。23年には花岡蔚さんが石橋さんの本を踏まえて『新版 自衛隊も米軍も日本にはいらない恒久平和を実現するための非武装中立論』(花伝社)を刊行するなど、再評価の動きが続いている。

全ての暴力に反対しスタンディングするダニーさんとお連れ合いのかほるさん(右)。

 

▽ダニー・ネフセタイ/著 永尾俊彦/構成 
集英社 1100円