社会新報

米軍ヘリが都心で低空飛行-3つのカラクリで日米合意を骨抜き

(社会新報2021年4月21日号1面より)

 

在日米軍機による低空飛行が全国各地で問題化している。自治体がいくら中止を求めても米軍がやめることはない。歯止めをかける仕組みを骨抜きにする3つのカラクリがあるためだ。

 

 

今年に入りネットに衝撃的な動画が投稿された。青い空と海が広がる沖縄県・辺戸岬。巨大な飛行機がどんどん近づいてくる。「キーン」。岬スレスレを耳障りなごう音を立てて通過した。米空軍所属の「MC130J 特殊作戦機」。地元紙の報道によると、異常な飛行は昨年末から繰り返され、目撃した人たちが思わず「やばい」と声を上げるほどだという。
住民がこうした危険な飛行を目撃した場合、やめさせる手立てがある。通報窓口が防衛省の地方防衛局に設けられているのだ。防衛局が通報内容から米軍機の可能性があると判断すれば米軍に通知する。苦情を米軍の運用に反映させる「連絡メカニズム」と呼ばれ、1999年の日米合意などで整備されたものだ。

 

「連絡メカニズム」変質

ところが、2017年8月にこの仕組みがひそかに変えられていた。それまでは、防衛省が苦情のあった飛行が米軍によるものか問い合わせると米軍は回答していた。だが、原則応じなくなったのだ。米軍は「運用上の理由などのため」としか日本側に説明しなかった。これに対して防衛省は抗議するどころか照会自体をしなくなり、苦情内容を米側に伝えるだけになってしまった。

これでは米軍は苦情を聞くだけになる。騒音などの発生源を特定するには、住民側が低空で飛ぶ機体を自力で撮影するしかない。上空を一瞬で通過する米軍機の撮影は難しい。これがカラクリの1つ目だ。

 

非公開にする日米密約

2つ目は情報公開の仕組みを骨抜きにするものだ。

低空飛行訓練のルート下にある自治体が最も求めているのが、訓練ルートや実施時期の事前通知とされる。住民説明や消防ヘリとのニアミスの回避などに不可欠なためだ。全国知事会も18年から「速やかかつ詳細な情報の提供」を必ず事前に行なうよう日本政府に提言している。

しかし、日本政府は米軍の飛行を事前に知りながら自治体に伝えていない。航空法は飛行前に飛行計画を国土交通省に通報するよう定めている。米軍は航空法令上の規制の多くが適用外となっているが、飛行計画の通報義務は日本の航空機と同様に負っている。飛行計画にはルートや日時を記入する。つまり、少なくとも国交省はこうした情報は事前に把握している。それなのになぜ自治体に知らせないのか。

それは非公開にする日米の密約があるためとされている。それを裏付ける文書の存在が19年に明らかになった。衆院議員が独自ルートで入手した「日米合同委員会」の合意文書で、日本政府もその存在を認めざるを得なかった。文書にはこうある。「両国政府は、飛行計画、交信記録(略)などの個々の米軍機の行動に関する事項は、いずれの政府も双方の合意なしには公表しない」。

議員は、合意内容が国交省に通知された際の文書も合わせて入手していた。その表題は「米軍用機の活動に関するデータの不公表について」。「飛行計画」を含む全ての情報を「不公表」にする合意と言わざるを得ないだろう。

 

99年の日米合意に「穴」

3つ目のカラクリは、米軍の低空飛行訓練に歯止めをかける99年の日米合同委員会合意に関するものだ。

合意の背景には低空飛行訓練への批判の高まりがあった。国内外で墜落事故が相次いだためだ。合意の柱は2つ。飛行時には「人口密集地域などに妥当な考慮を払う」とした点と「日本の航空法により規定される最低高度基準を用いる」とした点だ。

だが、前述のようにこの合意は守られていない。しかも「穴」まで空いている。今年2月、新聞社の調査で米軍ヘリが新宿駅上空など都心のど真ん中で超低空飛行を繰り返している実態が判明した。報道によると、米軍は「ヘリの低空飛行訓練は99年合意の対象外だ」と強弁したという。米軍の理屈に従えば、ヘリなら好き勝手に低空で飛べることになる。

日本政府の対応は及び腰だ。茂木敏充外相は国会で見解を問われ、「99年合意に航空機の定義は置いていない」と述べて、ヘリも合意対象になるとの認識を示す一方、日米の解釈に食い違いがあるとは認めず、改善策にも言及しなかった。

「米軍は日米合意やルールに基づき飛行している」。低空飛行が問題になるたびに米軍はこう繰り返し、日本政府が追認する。だが、その合意やルールは骨抜きにされている。国民をあざむいているというほかない。

 

日米合同委員会

在日米軍の活動に必要なルールを定めた日米地位協定の運用を協議する機関。1952年の日米安全保障条約などの発効に伴い設置された。外務省北米局長が日本側代表、在日米軍司令部副司令官が米側代表を務め、本会議に当たる「合同委員会」の下に複数の分科委員会・部会がある。合意内容の公表は一部だけで議事録などは秘密扱いにされる。合同委では米軍人に有利な裁判権など数多くの密約が結ばれたと指摘されている。