(社会新報8月1日号1・2面より)
社民党は7月11日から14日まで、福島みずほ党首を団長とする韓国訪問団をソウル市に派遣した。福島党首のほか、大椿ゆうこ副党首、服部良一幹事長らで団を構成。党首が韓国を訪問するのは、2015年に当時の吉田忠智党首が訪れて以来9年ぶり。今年4月の韓国総選挙で、野党圧勝と与党惨敗により尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が苦しい運営となる情勢変化を踏まえ、新任の国会議長や野党幹部、労働組合などと意見交換することが目的として訪韓した。(8月15日合併号で詳報を掲載予定)
◇
訪韓団一行は7月12日、ソウル市の韓国国会で禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長を表敬訪問し、意見交換した。同氏は今年6月、国会議長に就任するにあたり、「共に民主党」の党籍を離れ無所属となった。
禹議長は日韓両国を「経済発展や北東アジアの平和のためのパートナー」と位置付け、「韓日関係が信頼に基づき経済、文化、人的交流などさまざまな分野で協力を続けることを望む。北東アジアの平和と発展に大きく貢献することを期待する」と語った。
福島党首は「社民党は2001年の『土井ドクトリン』で北東アジアの非核地帯設置構想を発表し、核兵器の廃絶を求めてきた。北東アジアの平和と発展のために信義に基づいた日韓関係を期待する」と述べた。
処理汚染水を語る
また、禹議長は、東京電力福島第1原発の処理汚染水の海洋放出について、「韓日の政治家や市民は汚染水の放出中止問題を決してあきらめていない」と強調し、国会レベルで放出の中止を目指す考えを示した。
禹議長は「共に民主党」所属議員時代の昨年7月にはソウル市の国会議事堂前で福島原発汚染水海洋放出反対の断食を行ない、翌8月には福島県いわき市での反対集会に参加した。福島党首は「日本では汚染水を止める裁判が続いており、社民党は裁判を支援すると同時に、国会で海洋放出に反対し、止めるために全力を尽くす」と強調した。
大椿副党首は「韓国では急速な少子化が進行している。その背景には日本と同様の非正規雇用やプラットフォームワーカー問題がある。韓国では使用者の定義を拡大する『黄色い封筒法案』や3年前に制定した重大災害処罰法をより良いものにしようとしている。両国の底辺で働く者の生活と権利を守るために政治は何ができるのかを今回の訪韓で学びたい」と語った。
福島党首は、多数の朝鮮人が亡くなった1945年の浮島丸事件の乗船員名簿を情報公開で入手したこと、韓国政府が要求すれば黒塗りされていない名簿を渡すと日本政府が答えたことを禹議長に伝えた。
禹議長は、歴史認識問題で、アジア諸国への侵略と植民地支配を謝罪した1995年の村山富市首相談話を「高く評価している」と述べ、日本社会党・社民党に敬意を表した。
4野党と幅広く懇談
訪韓団一行は、初日の11日から12日にかけて、韓国野党4党(共に民主党、進歩党、祖国革新党、正義党)の国会議員らと、北東アジアの非核化や労働法制、ジェンダー平等、少子化、食料自給率と農家の所得補償、汚染水、浮島丸事件、貧困と格差是正など幅広いテーマで意見交換。
懇談会に出席した野党4党の出席者は次の通り。
【共に民主党】=李庸ソン(イ・ヨンソン)、金容萬(キム・ヨンマン)、李寿珍(イ・スジン)の国会議員。
【進歩党】=金在ヨン(キム・ジェヨン)常任代表、尹鍾五(ユン・ジョンオ)院内代表・国会議員、全鍾徳(チョン・ジョンドク)院内副代表・国会議員、洪喜眞(ホン・ヒジン)青年進歩党代表。
【祖国革新党】=金竣享(キム・ジュニョン)代表代行、申荘植(シン・ジャンシク)院内副代表、金載原(キム・ジェウォン)院内副代表、李海珉(イ・ヘミン)広報委員長、車圭根(チャ・ギュグン)代表秘書室長。
【正義党】=李恩周(イ・ウンジュ)政務室長、羅順子(ナ・スンジャ)事務総長、文晶垠(ムン・ジョンウン)副代表、嚴貞愛(ウォン・ジョンエ)副代表、権英国(クォン・ヨングク)代表、姜恩美(カン・ウンミ)前国会議員。
尹大統領の拒否権乱発を批判
まず、最大野党「共に民主党」との意見交換では、文在寅(ムン・ジェイン)大統領首席秘書官を務めた李庸ソン国会議員が同党の外交・安保政策について、「朝鮮半島の非核化を希求する路線に変わりはない。核武装化・核開発に断固反対だ。新たな冷戦ともいえる緊張を増幅させる尹政権の外交は間違っている。緊張を拡大しない努力をしていく」と説明した。
また、大椿副党首が「尹政権は労働組合をどう認識しているのか」と質問すると、李寿珍議員は「民主労総などを危険勢力とみなし、弾圧を強めている」と語った。また李議員は「黄色い封筒法案」の行方について「野党は発議し本会議を通過するが、尹大統領は再び拒否権を行使するだろう」との見方を示し、労働法制を前進させるには政権交代しかないと訴えた。
食料自給率の向上へ新法を
総選挙で国会に3議席を獲得した進歩党とも意見交換した。前身の統合進歩党は2014年に強制解散となった苦難の歴史を有する。金在ヨン常任代表は農業政策について「韓国の穀物自給率は20%。農家の所得補償で自給率を50%に引き上げたい。食料輸入への依存を強める尹政権は退陣を」と訴えた。福島党首は「日本の食料自給率は37%。社民党も参画した鳩山連立内閣は農家への戸別所得補償政策を実施したが、安倍内閣が廃止してしまった」と指摘し、「進歩党の農業政策を学びたい」と語った。
「検察独裁」の改革を
次に、12人の国会議員が誕生した祖国革新党は、民主主義の自由権に加えて、格差是正や社会保障充実をはじめとした社会権を重視する。金竣享代表代行は「社会権先進国を目指す。理念は社民党と非常に近い」と語った。福島党首も「多くの共通項があり、連携する契機としたい」と応じた。また祖国革新党は尹政権の「検察独裁」を厳しく批判し、捜査権と起訴権を独占する検察庁を廃止し、捜査権と起訴権を分離する改革案を説明した。
少子化の背景にある雇用・格差の改善を
最後に、総選挙で残念ながら議席を失った正義党との意見交換。党再建に全力を挙げている権英国代表は、「路上の弁護士」と称されるほど現場の声を聞く人物。深刻な少子化について「韓国の昨年の出生率は0・7%。第2の都市・釜山は将来、消滅の危機が懸念される。背景に雇用や格差・貧困問題がある」と指摘し、労働関連法案の成立に拒否権を乱発する尹大統領を厳しく批判した。
◇
なお、一行はこの他、日本企業・日東電工の韓国内子会社・韓国オプティカルハイテックで不当解雇撤回を闘う労組と意見交換し、多くの若者が圧死した梨泰院(イテウォン)惨事の現場視察と遺族との懇談を行ない、金鎔均(キム・ヨンギュン)さんの産業災害死亡事故を受けて設立された財団を訪問した。(日本企業・日東電工の子会社・韓国オプティカルハイテック社での不当解雇撤回を闘う労組や梨泰院惨事の遺族との懇談などについては次回合併号に詳報予定)。