(社会新報5月30日号より)
「自治体議員女性政策研究交流会」(同実行委主催)が4月11日と12日、衆院第一議員会館で開かれた。交流会には杉並区長の岸本聡子さんもオンラインで参加し、「ミュニシパリズムを全国の自治体から」と題して報告。要旨を紹介する(文責は編集部)。
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ミュニシパリズムとは、市民の政治参加を、選挙による間接民主主義から地域政治への直接的な参画に拡大する運動。ルーツは南米にあるが、私が国際政策NGOのシンクタンクで仕事をしていたころ、欧州で地方自治を変革する戦略として集合的に生まれ、ミュニシパリズムを実践する首長が次々と誕生していった。
ミュニシパリズムを日本的・杉並的な文脈に落とし込んでいく上で、私は3つの柱を立てた。①公共の再生②参加型民主主義③気候変動危機やジェンダーの主流化 である。
「公共の再生」とは、公共財・公共サービスの脱市場化・脱商品化。特に私は「ケアする人をケアする」ということを掲げている。生涯を通してケアの当事者にならない人は誰もいないのに、ケアワークの評価は低く、低賃金が常態化している。公共性・コモンズ(公共財)の維持は「コスト」ではないと、正面から言うときだ。新自由主義的な行政改革によって植えつけられたコスト意識が行政に内在化されることで、非正規雇用の拡大が正当化されている。転換が必要だ。
「公共の再生」のための戦略的なツールが公共調達。杉並区の公契約条令を使って、公的契約に社会的価値をきちんと反映させ、地域に良質で安定した雇用を創出していく。さしあたり、指定管理者制度の検証を踏まえ、「杉並区施設運営パートナーズ制度」を導入した。地域経済や地元の雇用に関心のある事業体を選んでいく方針を示したものだ。
「参加型民主主義」では、無作為抽出で区民の参加を募り、特定の課題について話し合う「くじ引き民主主義」を活用。代表的な気候区民会議は、市民が熟議を通じて作成した気候危機に対する包括的な提案を行政が政策に生かす枠組みだ。区民提案(去年は57件)を予算編成に反映する、市民参加型予算もスタートさせた。
先を思うと難問山積だが、職員の意識を含め、変化の実感はある。なによりも市民参画によって政策に命が吹き込まれている。今年度は「こどもの権利条例」実現が大きなテーマ。区職員による900人の子どもたちへの聞き取りなど、条例提案への準備が進んでいる。