社会新報

映画『ここから』の院内上映集会~戦後最大の組合弾圧に抗う

松尾聖子さんがいまの思いを熱く語った(昨年12月11日、参院議員会館)。

 ドキュメント映画『ここから「関西生コン事件」と私たち』の上映集会が昨年12月11日、社民党副党首の大椿ゆう子参院議員らの呼びかけで参院議員会館で開かれた。
 呼びかけ人には大椿議員の他に、社民党党首の福島みずほ参院議員、立憲民主党の阿部知子衆院議員、れいわ新選組の大石あきこ衆院議員も名を連ねた。
 トークゲストには監督の土屋トカチさん、制作の全日本建設運輸連帯労働組合(全日建/連帯ユニオン)中央本部書記長の小谷野毅さん、主役を演じた松尾聖子さんの各氏が並んだ。
 『ここから』は2022年に公開され、自主上映運動が展開されている。院内で上映されるのは初めてのこと。

人生を充実させた組合

 映画は生コンドライバーの松尾聖子さんを主役に据えたことで、戦後最大の組合弾圧と言われる「関西生コン事件」を身近に感じさせる作品に仕上がっている。松尾さんは幼い3人の子どもを抱えたシングルマザー。大型免許を取得して生活保護から抜け出そうとしていた時、生コンの仕事を紹介され、非正規雇用ドライバーとして働き出した。20歳代後半の松尾さんが受け取った給料は約28万円。子育てしながら生きていく道が開け、自信を取り戻していった。そんな彼女が生コン運転手で組織する労働組合「関生(かんなま)支部」に入ることで社会保険に加入できた。関生支部は、企業の枠を超えた産業別労働組合で、団結と活動により年収700万円台、週休2日制、年間休日125日という労働条件を勝ち取ってきた。松尾さんは先輩組合員の推薦で正社員になり、生理休暇が有給で取れるようにもなった。同じ組合員の男性と再婚して、幸せをつかんだ。このように、松尾さんにとって組合とは子どもを育てられる経済的基盤であり、社会への目を広げる大事なつながりであった。

家族と仲間を引き裂く

 そんな彼女と関生支部に全く予期しない暗雲が立ち込めたのが2018年だった。ストライキやビラまきの組合活動が「組織犯罪」とされ、組合弾圧が始まったのだ。500人を超す組合員が閉め出され、続いて80人もの組合員が逮捕された。松尾さんの義兄も逮捕され、夫も職場を追われた。他の多くの労働者同様、二人は組合を脱退。松尾さん自身も組合弾圧の中で会社を解雇されたが、何も悪いことはしていないと自覚し、関生支部にとどまった。しかしそのことで、家族は引き裂かれてしまう。
 ベテラン組合員の吉田修さんは、団交を拒否した生コン会社に対する抗議活動に参加していたことを理由に逮捕された。135日間、拘置所に入れられた。辛酸をなめた末、2年後、裁判で無罪判決を勝ち取った。
 大阪高裁は、関生支部の行為は組合活動であることを認めた。正社員化の要求や社会保険・残業代なしの不当な働き方に抗議して団体交渉を申し入れること自体は、正当な組合活動であることが認められた瞬間であった。

ゼネコンの支配と闘う

 巨大資本のゼネコンが支配する建設産業には、肩入れする政治権力と警察・検察当局、さらに暴力団も寄生していた。労働現場を支える中小企業は下請け構造に組み込まれ、末端の労働者は不安定な使い捨て雇用で収奪され続ける。その大企業の支配構造を打ち破ろうと、受注・販売窓口を一本化し、ダンピングを許さず適正価格で受注し、正当な雇用と報酬を保障しようとした協同組合が、経営者にとって目障りな存在であったことは間違いない。

仲間の絆で労働権守る

 「関生弾圧を容認すれば、私たちは労働三権を失う」と訴えてきた大椿ゆうこ議員は、『ここから』上映後、国会議員の中に仲間を1人でも2人でも増やしていきたいと力強く語った。労働の「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」を守り、実効性を担保できるのかどうか。その意味で「関西生コン事件」はひとごとでは決してない。
 松尾さんは集会のトークで「暴力団を担当する警察の組織犯罪対策課が自宅の中をむちゃくちゃにした。やられっぱなしで泣き寝入りだけはしたくない」と関生支部への刑事弾圧を厳しく批判し、「私は組合をやめない。だって、誰も悪いことはしていないのだから」と同支部に踏みとどまる決意をあらためて語った。 
 ドキュメンタリーを見た私たちは「ここから」、仲間との絆を信じて、手を取り合って立ち上がることが求められている。

 

上映集会に参加した(右から)山本太郎れいわ代表、大椿社民党副党首、小谷野書記長、松尾さん、土屋監督、大石衆院議員。