社会新報

経済版秘密保護法の危険性~共同テーブル・シンポジウムで海渡氏らが指摘

右からパネリストの海渡雄一さん、青木理さん、望月衣塑子さん、コーディネーターの佐高信さん。(5月23日)

 

(社会新報6月6日号1面より)

 

 経済版秘密保護法とも言われる経済安保新法(メモ)が、十分な審議もなく5月10日に国会で可決・成立した。
 この新法の危険性などをテーマに、共同テーブル主催のシンポジウム「経済の監視統制と軍事費大増強の危険な本質を暴く!」が5月23日に東京・文京区で行なわれ、約250人が参加した。

個人情報 総理に集約

 最初に、甲斐淳二さんによる講談「房総・花物語 戦時下で花を守った母と子」が行なわれた。
 戦時中の国家総動員法の下で、国家権力から「花をやめてイモをつくれ」などと強制された事実を迫真の力強さで描き、現在制定がもくろまれる食料供給困難事態対策法なども取り上げ、国家統制に突き進む日本社会の危うさを訴えた。
 続いて、さまざまな治安関連法の危険性を訴え続けてきた弁護士の海渡雄一さんの他、ジャーナリストの青木理さんと望月衣塑子さんを交え、シンポジウムが行なわれた。コーディネーターは評論家の佐高信さんが務めた。
 海渡さんは、今回制定された経済安保新法について、「(約10年前に制定された)秘密保護法の改正手続きによらず、運用基準の見直し(閣議決定)で経済安全保障に関連する情報まで大きく拡大させようとした」として、「立憲主義の破壊行為だ」と批判した。
 さらに、新法の中の適性評価について、次のように危険性を指摘した。
 「内閣総理大臣が行なうとした点がミソ(重要)で、実際に実行するのは委任される内閣情報調査室の職員だと思う。膨大な個人情報が、総理の下に置かれる情報機関に集中・蓄積される。しかも、独立の立場で監督する第三者機関は全くない。悪用すれば誰でも対象にして調べられるし、悪用されているか否かをチェックする人もいない」
 ただし、立憲民主党が同法案に賛成したのに伴い、秘密保護法制定時の成果を生かして、次の文言を附帯決議に明記させたという。
 「調査事項に関係しない評価対象者の思想、信条及び信教並びに適法な政治活動、市民活動及び労働組合の活動について調査してはならないことや、調査の過程で調査事項に関係しない情報を取得した場合には、これを記録してはならないこと等を運用基準に明記すること」
 海渡さんはこうした現実を前にして、「現在は『新しい戦前』だなと思う。こうした流れは、『中国許すまじ』という雰囲気づくりに利用されるではないか」と懸念を示した。

政府と警察官僚の癒着

  青木さんは、共同通信の記者として1990年代半ばに警視庁公安部を担当した経験をもとに、次のように指摘した。
 「当時、新左翼を担当する公安第一課の人員は、刑事部の花形といわれた捜査第一課と同じ300人くらいいた。公安部門はエリートで、その最大のレゾンデートル(存在意義)は『反共』だった」
 だが90年代に共産主義諸国が次々と倒れ、国内でも左翼勢力が退潮した。そうした中でオウム真理教事件が起き、公安部門もいくつかの事件の捜査を任された。だが、軒並み失敗し、人員が減らされ始めたという。
 この状況下で、新しい存在意義として「テロ対策」を打ち出すとともに、政治権力の中に警察出身官僚が入り込み、権益を増やすようになった。その表れの典型が安倍晋三政権下の秘密保護法であり、今回成立した経済安保新法だという。
 青木さんは、こうした流れの中で大川原化工機事件という「公安警察によるでっち上げ」事件が起きたことを指摘した上で、次のように語った。
 「(特に安倍政権下で)テロ対策とか経済安保は公安にとってのレゾンデートルであり、そのことを根拠に組織を増やしてきた。だから、何か手柄を上げなければならないと考え、かなり無茶をしたのではないか」
 望月さんは、ある元特捜検事から「検事時代、公安側に『逮捕しても起訴できない』と伝えても、『逮捕さえできればいい』とか『無罪でも仕方がない』という返答があった」という話を聞いたことを紹介し、次のように指摘した。
 「国家として見せしめ的な意向を示すだけでいい、という発想だ。結果として、(大川原化工機事件のような)無理くりの事件になったのだと思う」
 
 
(メモ) 【経済安保新法】2013年12月に制定された秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野の情報保全を目的とし、公務員を中心に身辺の適性評価(セキュリティ・クリアランス)ができるとした。違反者への罰則も設けられた。
 新法では、適用範囲を経済安全保障まで広げ、民間企業の従業員とその身辺も適性評価の対象にした。
 対象者の調査項目には、秘密保護法と同様に、本人の飲酒歴・精神疾患歴や金銭借入歴だけでなく、家族・親族や同居人らの個人情報まで含まれる。