社会新報

【主張】マイナ保険証で大混乱 ~ 現行の健康保険証を廃止せず存続を求める

マイナンバーカードの見本(総務省提供)

 

(社会新報6月28日号3面より)

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 6月21日に閉会した通常国会では、岸田政権の暴走によって平和と暮らしを破壊する悪法が次々に成立した。その一つが、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと合体したマイナ保険証に一本化する改悪である。

 岸田政権が「デジタル時代のパスポート」との触れ込みで普及に力を入れるマイナンバーカードをめぐり、深刻なトラブルが頻発化した。マイナ保険証は、医療機関の現場に大きな混乱をもたらしている。

 マイナンバー関連法は、マイナンバーの利用範囲を拡大し、これまでの社会保障、税、災害対策の3分野に、国家資格の取得・更新や自動車登録の手続きなども加える。マイナ保険証は患者が同意すれば、医師や薬剤師が過去の診療情報をみられるようになり、病歴情報を治療に活用できると宣伝する。政府は行政のデジタル化で、暮らしの質を高めるという夢を描くが、現実は個人情報漏えい続きの恐怖の日々である。

 コンビニでの証明書交付サービスで住民票や戸籍謄本を取ったら別人の証明書が発行されたり、マイナ保険証に他人の医療情報がひも付けられていたり、マイナポイントが誤って別人に付与されたり、公金受取口座が別人のカードで登録、医療機関の窓口で十割負担が続出などの問題が次々と発覚。先月の厚労省調査によるとマイナ保険証の誤登録は7300件に及ぶ。

 共同通信が6月17、18の両日に実施した世論調査によると、マイナカードの活用拡大に「不安を感じている」「ある程度不安を感じている」が71・6%。来秋の健康保険証廃止は「延期すべき」が38・3%、「撤回すべき」が33・8%。実に72%が廃止に反対である。

 諸外国の個人番号制度はどうなっているのか。G7加盟国のうち、英国、フランス、ドイツがいずれも廃止・撤回。英国では2006年にIDカード法を成立したが、反対の声に押されて2010年に廃止。ドイツでは個人を識別する番号を利用することは憲法違反との判決もあり、共通番号はない。フランスでは1972年に個人共通番号の「SAFARI」計画を検討したが、反対運動で撤回。G7加盟国ではないが、オーストラリアでは1986年にカード法が提案されたが、市民の猛反発で廃案となった。米国の社会保障番号は、取得は任意で、情報漏えいと「なりすまし」被害事件が相次ぎ、社会問題になっている。韓国の住民登録番号も同様の被害事件が続出。日本のマイナンバーはこうした世界の共通番号廃止の趨勢(すうせい)に逆行している。

 日本の個人共通番号制度の試みは半世紀近く挫折の連続だった。概観すると、1968年、佐藤栄作内閣時代に「国民総背番号制」の導入が検討されたが、反対運動で挫折した。1980年、納税者番号の一種「グリーンカード制度」を導入する法律を成立させたが、政財界から批判が噴出し、5年後に廃止。2002年に始まった住民基本台帳ネットワークへの世論の反対は強く、普及率はわずか数%で、失敗に終わる。マイナンバー制度が2016年に始まるまでに長い挫折の歳月を費やした。2020年4月時点でカードの普及率は約16%と低調だった。マイナポイント付与というアメ玉で普及率を2023年4月時点で67%にまで無理やり増加させた。その反動が今日の大混乱を招いている。

 政府はそもそも昨年6月の段階では現行の健康保険証とマイナ保険証の選択制を掲げていた。しかし、河野デジタル相は同年10月に突如24年秋の保険証の廃止、つまり事実上の強制に転じた。拙速の極みだ。

 システム全体の問題点を洗い出し、国民の不信が払拭(ふっしょく)されるまで、マイナ保険証の運用を停止すべきである。そして国民皆保険制度の象徴でもある現行の健康保険証は廃止する必要はなく、存続すべきだ。