社会新報

【中野晃一教授の講演より】トランプ化する日本の政治 ~ 逆境にあるリベラルがどう巻き返すか

■中野晃一(なかの・こういち) 1970年生まれ。上智大学国際教養学部教授。専門は比較政治学、日本政治、政治思想。2015年に結成された「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)の呼びかけ人。著書に『戦後日本の国家保守主義 内務・自治官僚の軌跡』(岩波書店、13年)ほか多数。

 

上智大学の中野晃一教授(国際教養学部)が「トランプ化するアメリカと日本」と題し、先月29日、都内で講演した。中野教授は「状況は最悪だが、だからこそ声を上げていくことが必要」と訴えた。

ハーバード大学での研究のため、昨年渡米し、今年7月末に帰国した中野教授を招いて勉強会を行なったのは、「許すな!憲法改悪・市民連絡会」。定員200人の会場は、ほぼ満員。講演冒頭、中野教授は高市首相について「首相になってはならない人が首相になってしまった」と嘆きつつ、米国にいた時に、対日政策の研究者らが皆、「高市さんが首相になるのは勘弁して」と言っていたと振り返る。
「(対中国で)タカ派、抑止論者の側からしても高市さんのような人は迷惑。歴史修正主義だと合理的な話ができなくなる。今、中国が激怒しているようなことを引き起こして、戦争になったら困る」「日韓の準軍事同盟化を進めていたのに、それもできなくなる。実際に韓国の外務省が米国の国務省に『高市政権は困る』と言っていたという話を聞いた」として、抑止力強化論者の側からも高市政権の誕生は懸念されていたことを指摘。

日米安保ムラが動く

そのような背景から中野教授は、「日米安保ムラが動いた」として、昨年の総裁選で高市政権の発足を阻止したのは自民党内のタカ派・抑止論者だと推察。その「日米安保ムラ」が今回の総裁選では高市政権阻止に動かなかったことについて、「日米安保ムラでこの間やってきた人々は皆、外に追いやられた。トランプ政権で外交安全保障政策をやっている人々は、そうした動きと関わってこなかったし、深い考えもなくバイデン政権のやってきたことをひっくり返すというのがトランプ大統領の姿勢」「自民党内のタカ派と、私が『バカ派』と呼んでいる高市さんを支える極右勢力とが分裂して、疑似政権交代が起きた」と分析した。

政権交代の受け皿を

今年の参院選後、高市政権となることを懸念して、リベラルの一部に石破政権の存続を求める動きがあったが、これについて中野教授は「心情は分かるが、衆参2つの選挙で負けた石破首相が辞めなかったら、選挙で投票する意味が分からなくなる」と指摘。自民党が大幅に票を減らしても「野党の側がそれに変わる政権枠組みをつくれない。揚げ句の果てに、玉木さんみたいなショボい人を(首相候補として)出してくる」「野党支持者までが『石破頑張れ』って言っている状態って、どれだけ野党がダメになってるのかという話」として、旧民主党系の政党が人々の票の受け皿になれていないことこそが問題なのだと説いた。
「衆院選の得票率を比較してみると、安倍さんが圧勝した2014年と17年の選挙の得票率は約17%で、実は大敗した麻生さんの時より低い。それなのになぜ安倍さんが勝ったかというと、野党が分裂して票が割れるようになってるから。小選挙区での得票率を見ると、野党共闘で負けた時の得票率よりも、去年の選挙の方が少ない」「自民党の得票が減っても、結局よりエッジの立った、より過激な政党の方が悪目立ちをしている」

どれだけ本気を見せるか 「エモい」ことが鍵

中野教授は、リベラル側が「中道」をアピールすることで、保守側を勝たせてしまうことを、2024年の米国大統領選を例に挙げて解説した。「ハリス氏がなぜトランプ氏に負けたか。米国では移民がいなければ経済が成り立たないのに、急に移民を悪魔化した。それにハリス氏は乗ってしまった。『私は元検察官で悪人を大勢捕まえてきた』とか言って。それが支持を得られなかった」。
逆境にあるリベラルがどう巻き返すのか。中野教授は「エモい」ことが鍵だという。「若者言葉で、要は感情に訴える、琴線に触れるということ。どれだけ本気を見せるのかどうか。首相を含めて政権がとにかく危ない状態になっている。だから、回り回って平和主義をストレートに訴えるのがよいと思う」。 (12月18日号より)