社会新報

寄稿 西尾慧吾さん  沖縄戦没者の遺骨を含む沖縄南部土砂を採取しないで-茨木市議会など全国の自治体で意見書採決が相次ぐ-

(社会新報2021年7月28日号2面より)

 

防衛省・沖縄防衛局が沖縄戦戦没者の遺骨が染み込んだ沖縄本島南部の土砂を用い、辺野古新基地建設を強行しているという「遺骨土砂問題」。これは人道上の問題で、国は一刻も早くこの蛮行をやめるべきだ。(西尾慧吾)

これは国がつくり出し、沖縄に押しつけた問題であるので、問題解決の責任は日本の全市民が負うべきである。だからこそ、地元から問題解決への流れをつくりたい。私はその思いで、「沖縄戦戦没者の遺骨等を含む土砂を埋立てに使用しないよう求める意見書」を大阪府北部の北摂地域の複数自治体で採択させる取り組みをしてきた。

6月議会では、大阪府茨木市で全会一致採択。吹田市では圧倒的賛成多数での採択(維新のみの反対で、賛成30・反対5)を実現できた。この間、協力をいただいた方にはあらためて感謝したい。

草の根の運動で共働

これは、草の根の市民運動と地方議員との共働によってつかんだ結果だ。特に地元で「総がかり行動」や戦争と平和展、労働相談、学習支援などに尽力し続けてこられた「サポートユニオン with You」の方々と連携できたのは大きかった。党派に縛られた政治運動を前提とせず、「遺骨土砂問題」に関心・問題意識を持つ市民が広汎に連帯できたからこそ、国政与野党の差を超えた意見書採択に至ったと思う。

茨木市では、ドキュメンタリー『ちむぐりさ菜の花の沖縄日記』上映会と学習会、毎月駅前で行なう「総がかり行動」での街頭アピールを中心に、「遺骨土砂問題」・辺野古新基地建設・土地規制法案など、沖縄をさいなむ諸問題の市民への周知を図った。

市民派議員の方々には、そうした運動の現場に来てもらい、沖縄に対する市民の認知・関心の高まりを実感していただいた。当初は議員の間にも、「沖縄は市民の生活実態から遠い」「安全保障問題は、地方議会にはなじまない」との懸念もうかがえた。しかし、現場で直接交流する中で、「遺骨土砂問題」が茨木市民の生活苦ともつながる人道問題であり、議員として取り組むべき課題だと納得いただけた。

沖縄県議会・沖縄の複数市町村議会で意見書を全会一致で採択した前例があったことも追い風となり、最後は全会派代表の連名で意見書を市議会本会議に上程していただけた。茨木市のような保守自治体での全会一致採択は、同様の動きを全国に広める貴重な先例になると思う。

9月議会につなげる

現在、茨木市・吹田市の他、奈良県・金沢市・長野市・小金井市・河南町議会で意見書が採択されている。9月議会に向け、この動きを全国に広げ、国政の変化につなげたい。

一部の自治体で意見書採択が実現しても「遺骨土砂問題」が解決するわけでもないし、「9月議会まで待てない」と言うのが遺族やウチナーンチュの方々の本音だと思う。

「遺骨土砂問題」は沖縄の辺野古新基地建設強行が生む問題の一つだが、大阪府茨木市での意見書採択は「辺野古には言及しない」との条件付きだった。「辺野古新基地建設反対」の意見書を採択することは依然、現実的には難しく、市内でも課題山積だ。

ただ、沖縄に焦点を絞った運動だけでは市民の関心の維持は難しいと思う。私たちは、6月議会での取り組みを、沖縄への安易な同情・連帯感による一過性のものではなく、地方自治を活性化して日本社会の構造悪を是正する継続的取り組みの出発点と捉えていた。市民自らが国民主権の実践を生活文化に取り入れるという、巨視的な目的意識から運動の展望を描きたい。

水汚染で共通性探る

沖縄について言えば、市民が自分の生活と沖縄の現状とを結びつけて考えられるような問題提起を継続したい。例えば、大阪府内ではPFOS・PFOAによる水汚染が問題となっているので、その関連で沖縄の米軍基地が生み出す水源地汚染問題を学びつつ、国に実態調査・補償を求める意見書採択を目指すのはどうか。茨木市では再開発・山林開発が進められているが、それに伴う土壌流出・土砂災害・景観破壊の問題を掘り下げると、沖縄で起こる環境問題との類似性に気づけるかもしれない。市民生活に直結する課題と、沖縄とを結びつける想像力を養う場を増やしたい。

国政は市民の声を無視し、運動体の分断を企てるが、われわれは無力感に陥ってはいけない。市民と地方議員とが共に手と頭を動かし、変革者として国政と対峙(たいじ)し、来るべき衆院選で「生存のための政権交代」を実現したい。そうすれば、沖縄の現状の解決も見えてくるはずだ。

 

にしお・けいご

1998年生まれ。米エール大学在籍。専攻は哲学とマイノリティに関する文化人類学。17年4月より沖縄戦遺骨収容国吉勇応援会・学生共同代表として、関西を中心に毎年10ヵ所ほどで沖縄戦遺品の展示会を開催。また国吉勇さんから遺品に関する聞き取りを進め、地上戦の「動かぬ証拠」としての遺品の活用・継承に取り組んでいる。

 

↑内閣官房の職員(左端)に要請書を手渡す自治体議員ら。右端が服部幹事長、右から2人目が西尾さん=6月23日。

 
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