社会新報

衆院憲法審で何が起きてるのか~改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長、弁護士 大江京子~

(社会新報2022年5月11日号5面より)

 

改憲!改憲!の大合唱の衆院憲法審査会

 今年は日本国憲法が施行されて75年となりますが、今、憲法は最大の危機を迎えています。憲法審査会の雰囲気が昨年までとは全く変わりました。昨年までは、改憲手続法改正をめぐり、与野党の丁々発止のやり取りがありました。また、自民党が改憲4項目(安倍改憲案)を憲法審査会に持ち込もうとしたときも、多くの市民が反発して改憲手続法改正の議論を進ませなかったし、もちろん改憲本体の議論を持ち込むことも許しませんでした。当時から数としては改憲派の方が圧倒的に多かったのですが、改憲を許さないという市民の声が憲法審査会の中でもしっかり反映されていたと思います。

 ところが、今年は予算審議中の2月10日に憲法審査会が始まりました。しかも、維新の会を先頭に国民民主、自民、公明などの委員から毎週開催、毎週開催と攻められて、3月10日を除いて毎週開催という異常が続いています。改憲派は、何を議論するかよりも、とにかく開くことに意義があると言わんばかりの圧力を加えています。

 この状況変化は、昨年の総選挙で立憲民主党の議席が伸びなかったこと、維新の会が増やしたという結果を反映した変化です。維新の会の松井代表は昨年11月、「来年の参院選と同時に国民投票を実施すべき」と発言しました。昨年の選挙戦では維新の会も国民民主も候補者は改憲には触れていません。ところが選挙が終わったとたんに、改憲、改憲の大合唱になっているのです。

緊急事態条項改憲議論の口実とされた新型コロナ、ウクライナ侵攻、地震

 憲法審の早期開催の理由となったのはコロナでした。新型コロナ感染症などで多くの議員が国会議事堂に来られなくなっても国会機能を維持するためという理由で、憲法56条1項の「出席」とオンライン審議についての議論がなされて、極めて不十分な議論のまま、3月3日には、憲法56条1項の出席はオンラインによる出席も含むと解釈することができるというのが意見の大勢だったという「取りまとめ」が多数決で採決されました。審査会の運営や議論は与野党合意で進めるという、いわゆる中山方式の崩壊の兆しです。その後、ウクライナ侵攻や東北で起きた地震にことよせて緊急事態条項の改憲の議論になだれ込みました。想定できないような緊急事態が起きて日本が沈没するような事態において、国会の機能をいかに維持するかという議論が行なわれました。緊急事態条項改憲の中でも、衆院議員の任期満了前後に緊急事態が起きたときに国会議員の任期を延長できるよう改憲すべきという議論については、自民、公明、維新の会、国民民主などの改憲派の議員から、早期に「とりまとめ」をすべきとの意見が出されました。

狙いは9条の改憲

 衆院憲法審査会では改憲手続法のCM規制などの議論がなされていますが、自民党は、連休明けにも憲法9条の改憲議論に入ることを狙っています。

 岸田首相は所信表明演説の中で、敵基地攻撃能力保有論を選択肢に挙げて、軍事力を根本的に強化するとしており、自民党の憲法改正実現本部では、「自民党の総力を結集して憲法改正を実現する」と強い意欲を示しています。

 南西諸島や九州、中国地方では自衛隊・米軍の配備・強化が進み、台湾有事を想定した日米共同軍事計画では、南西諸島が米軍の新たな攻撃拠点にされようとしています。

 憲法9条の明文改憲は、これら一連の9条実質改憲の延長線上にあり、「戦争する国」づくりの総仕上げを狙うものにほかなりません。

 憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う国会議員が国民を置き去りにして数の力で改憲を主導することなど許されません。今、コロナ禍で苦しんで傷んでいる国民のために、国会は改憲論議などではなく他に議論すべきことが山ほどあります。

 衆院憲法審査会で立憲主義も民主主義も踏みにじる議論がなされていることを、市民に広く知らせて、抗議の声で国会を包囲していきましょう。

(4月21日執筆)

 

↑大江京子さん

 

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