社会新報

過剰な軍事力が悲劇招く~防衛ジャーナリスト 半田滋~

(社会新報2022年5月11日号4面より)

 

 安倍晋三元首相は山口市内の講演で、政府が検討する敵基地攻撃能力の保有について「(対象を)基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と主張した。

攻撃対象を敵基地に限定することなく、政権中枢などに拡大しようというのだ。

 敵基地攻撃は、鳩山一郎内閣が「ほかに適当な手段がないと認められる場合に限り」「(敵基地攻撃は)自衛権の範囲に含まれる」(1956年2月29日衆院内閣委)と答弁したことが根拠になっている。

 弾道ミサイルの落下という差し迫った脅威に対し、「ほかに適当な手段がない」とすれば、緊急避難的にミサイルの発射基地を攻撃することも合憲との見解を示したものだ。歴代内閣はこの見解を維持してきたものの、実際には自衛権の行使として敵基地攻撃することは想定していないと答弁してきた。

「中枢」攻撃論は違憲

 一方、「中枢」への攻撃を合憲と認める政府答弁は存在しない。憲法の縛りがある以上、「何でもあり」というわけではないのだ。手段を選ばないとなれば、ウクライナに侵攻したロシアとどこが違うのか。

 だが、安倍氏の主張はあながち的外れではないかもしれない。今年12月に改定が予定される国家安全保障戦略など国防3文書に敵基地攻撃能力の保有を盛り込むことを目指す岸田文雄首相は、「今後、名称も含めて検討していく」(2月18日衆院予算委)と答弁。名称変更の可能性が高い。

 自民党安全保障調査会は「反撃能力」とする提言をまとめた。あいまいな名称への変更により、攻撃対象を敵基地に絞らず「攻撃能力を持つ」という政府の本音が現実化しつつある。

 ところで、自衛隊による敵基地攻撃が可能か考えてみたい。政府が「脅威」と主張する北朝鮮の弾道ミサイルは今年になって12回発射された。いずれも移動式の発射機から打ち出され、固定した基地からの発射は1回もなかった。どこにいるのか分からない神出鬼没のミサイル発射機を攻撃するのは不可能に近い。

 日本には情報収集能力が不足しており、どれほど攻撃的兵器をそろえたとしても実効性に乏しく、相手国が攻撃を踏みとどまる抑止力にはならないだろう。

 だが、自衛隊はやりの穂先を磨くように、1980年代から攻撃に転用できる兵器を少しずつ導入してきた事実がある。上空から監視して味方の戦闘機を統制できる空中警戒管制機(AWACS)、戦闘機の航続距離を延ばす空中給油機、ピンポイント攻撃ができるGPS誘導爆弾やレーザー誘導爆弾などが該当する。

 安全保障関連法の施行後に改定された防衛計画の大綱は、護衛艦「いずも」型の空母化や長射程のミサイル保有を意味するスタンドオフ防衛能力の保有といった専守防衛を踏み越える攻撃的兵器の取得を打ち出た。

 2022年度防衛予算を見ると、閣議で長射程化を決めた12式地対艦誘導弾能力向上型や弾道ミサイルに改修可能な島しょ防衛用高速滑空弾の開発、外国製の長射程ミサイルを搭載するための戦闘機の改修費などに1858億円が計上され、敵基地攻撃に直結する兵器の国産化や輸入が進んでいることが分かる。

 22年度当初予算と21年度補正予算を合計すると6兆1000億円を突破した。

 これらの兵器類は、情報収集能力の決定的な不足により日本独自で敵基地攻撃に使うことはできない。効果を発揮するのは、高い情報収集能力を誇る米軍と一体化した場合に限定される。自衛隊の長射程ミサイル群は、米軍との共同作戦行動によって初めて命を吹き込まれることになる。

「台湾有事は日本の有事」

 安倍氏はおそらく、こう考えている。自衛隊が米軍と同様の強力な兵器を持つことが抑止力となり、中国による台湾の武力統一を阻止することができると。だが、その抑止が破れた場合、壮絶な戦争に発展するのは間違いない。

 台湾有事には米軍が参戦し、自衛隊は安保関連法によって対米支援を開始する。そうなれば、日本列島の各地にミサイルが落下してくることだろう。安倍氏が昨年12月の台湾のシンポジウムで発言した通り、「台湾有事は日本有事」になる。

 政治家は、過剰な軍事力強化が絶望的な悲劇を招くことまで想定しなければならない。

 

↑半田滋さん

 

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