社会新報

PFAS汚染列島~日本の許容摂取量は 米EPAの666倍

井戸から汲み上げた水。日本の井戸水などでは、米軍の泡消火剤に起因するとみられる高濃度のPFASが検出されている。(写真はPIXTA提供)

 

(社会新報7月11日号1面より)

 

 発がん性が指摘され、「永遠の化学物質」と呼ばれるPFAS(有機フッ素化合物)を体内に取り込んでも、どれくらいまで健康への影響はないのか。
 内閣府の食品安全委員会(以下、食安委)は6月25日、ワーキンググループがまとめたPFASによる健康影響についての評価書を正式に決定した。初めて「耐容1日摂取量(許容摂取量)」が盛り込まれた。(ジャーナリスト・諸永裕司)
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 食安委のワーキンググループが決めた許容摂取量は次のとおり(いずれも体重1㌔当たり)。
 PFOS 20ナノ㌘
 PFOA 20ナノ㌘
 米国環境保護庁(EPA)の値と比べると、PFOSで200倍、PFOAで666倍も大きく、欧州食品安全機関(EFSA)と比べても60倍を超える。
 血中のPFAS濃度に換算すると、PFOSで1㍉リットル当たり250ナノ㌘、PFOA143ナノ㌘に相当する。米国の学術機関「全米科学アカデミー」の指針では、20ナノ㌘を超えると健康への影響が出る可能性があるとされている。
 そんなに多く取り込んでも大丈夫なのか。ワーキンググループの姫野誠一郎座長(昭和大学客員教授)は「100点満点とは言えない」と認めつつ、「リスクを評価するための国内のデータが十分になかった。知見が集まれば見直される可能性がある」と話した。
 4000件近いパブリックコメントが寄せられるほどの注目を集めたのは、海外と比べてけた違いに甘いというだけではない。この値をもとに飲み水の規制が決められるからでもある。
 現在、飲み水の目標値は1リットル中に「PFOSとPFOAの合計で50ナノ㌘」。EPAが2016年に設けた勧告値「PFOSとPFOAの合計70ナノ㌘」をもとに、体重50㌔、1日2リットル飲用などの条件に合わせて弾き直したものだ。日本にはPFASに関するデータがなく、米国から借用せざるを得なかったという。

EPA旧勧告値と同じ

 ところが、その後、PFASの危険性が次々と明らかになってきたため、EPAは見直しに着手する。昨年6月、「PFOSとPFOAの合計70ナノ㌘」を大幅に引き下げて「PFOS、PFOA 各4ナノ㌘」とし、推奨にとどまる勧告値に代わって強制力のある規制値を導入する案を発表した。
 そうなると、日本も事実上ゼロにしなければならなくなる。水道事業者や企業は水質浄化などのコストがかかり、規制を守りきれない場所が出るだろう。関係者に衝撃が走った。
 厚労省は間もなく、「水質基準逐次改正検討会」を開き、専門家が意見をかわした。「引き続き知見の集積に努める」としながらも、PFOS・PFOAの目標値を見直すにあたっては、EPAの規制値ではなく、食安委による許容摂取量を考慮して決めることがひそかに合意された。
 十分な議論も説明もないまま、ゴールポストを動かしたのだ。
 こうした流れの中で決められたのが、今回の許容摂取量だった。「PFOS、PFOA 各20ナノ㌘」(1日、体重1㌔当たり)。この値は、EPAが旧勧告値の「合計70ナノ㌘」を設定したとき根拠にした許容摂取量とまったく同じだ。
 姫野座長は「PFOS、PFOAのリスクを純粋に評価した結果で、水質管理のための値がいくつになるかなど、一切考慮したことはない」と強調する。
 だが、EPAの旧勧告値から弾き出された日本の目標値もまた、同じ許容摂取量に基づくものということになる。つまり、食安委が設けた許容摂取量に基づく飲み水の目標値は、論理的に考えれば「合計50ナノ㌘」のまま変わらない。

ゆる過ぎるリスク評価

 ワーキンググループは評価書の中で、実際に飲み水の基準を決めるリスク管理機関に対して、「今回設定したTDI(注・許容摂取量)を踏まえた対応が速やかに取られることが重要である」(評価書)と求めている。ちなみにリスク管理機関とは、2024年度から水道事業業務が移管された環境省などを指す。
 姫野座長によれば、現在「水質管理目標設定項目」に位置付けられているPFOS・PFOAをより厳しい「水質基準」のカテゴリーに引き上げ、基準の順守を義務づけることによって人々のばく露を防ぐことが重要だという。
 その際、基準値をどのように決めるべきか。
 「不確実性や健康被害の『未然防止』等の観点も踏まえて、リスク管理の方策等が検討されるものと考えます」
 ワーキンググループが示したリスク評価は、十分なデータが得られなかったため、世界的には、けた違いにゆるい。それでもリスク管理をする際には、この許容摂取量から単純に水質基準を導き出すのではなく、まだ証明されていない健康への影響なども踏まえて決めることが望ましいと注文をつけたのだった。
 果たして、「PFOSとPFOAの合計で50ナノ㌘」とする目標値は引き下げられるのか。また、基準値に格上げされるのか。7月中にも開かれる「水質基準逐次改正検討会」が注目される。