(社会新報2021年6月23日号3面《主張》より)
なぜ、誰にでも無料配布する必要があるのだろうか。出入国在留管理庁が、在留カードと特別永住者証明書のICチップに記録された名前等の情報を表示させ、在留カード等が偽造・改ざんされたものでないことを確認できるアプリケーションを無料配布しており、非難の声が上がっている。
出入国在留管理庁のホームページから誰でも簡単にダウンロードができ、操作の仕方もくわしく説明。「偽変造が疑われる在留カード等を発見した場合には,お近くの出入国在留管理官署にお問い合わせください」と通報を勧めている。
2020年度版犯罪白書によると、偽造在留カード所持(偽造在留カード行使および提供・収受を含む)は748件。前年度は620件だったので、増加傾向にはある。しかし、偽造在留カードの確認が必要な入国管理局が利用するだけならまだ理解できるが、一般市民に向け無料配布する必要がどこにあるのか。そこには、「外国人は犯罪者予備軍」という入管の一貫した姿勢が表れている。「隣にいる外国人をチェックしろ。さぁみんなで監視だ! 取り締まれ!」。そう呼びかけられている気がしておぞましい。
一般市民を駆りたてるようなやり方に、関東大震災の時の自警団が想起される。自警団さながらに「正義感」でこのアプリを使い、外国人に在留カード提示を求め、遊び半分にアプリを使う者が出てこないか。
上川法務相は「ヘイトをあおるという指摘は当たらない」と言うが、在日韓国朝鮮人へのヘイトスピーチや奴隷労働といわれる外国人技能実習生制度、入管長期収容問題などを抱えたこの国で、排外主義を扇動するツールとしてアプリが利用される可能性は高い。自分に置き換えてほしい。日本国籍の人たちを対象に、身分証を読み取れるアプリが無料で配布されたら、気持ち悪さと恐怖にさいなまれるだろう。なぜ外国人ならそれが許されるのか。
かつて入国管理は、特別高等警察と同様、内務省の所管であり、警察行政の一環として行なわれていた。朝鮮人をはじめ外国人を取り締まっていた特高は、戦後、その多くが公職追放を免れ、入管業務に雇用された。外国人=犯罪者予備軍という発想はここから受け継がれている。外国人を監視・取り締まる対象から、共に生きる仲間として受け入れる、入管の抜本的な改正が急がれる。