社会新報

【通常国会の論点①】セキュリティクリアランス法案は大軍拡の基盤作り~経済安保版秘密保護法に反対

左から、海渡双葉さん、海渡雄一さん、井原聰さん。(1月29日、衆院第二議員会館)

 

(社会新報2月15日号2面より)

 

 政府は今通常国会で「経済安保セキュリティクリアランス法案」(仮称)を提出する予定だ。
 2013年12月に制定された秘密保護法では、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野の情報保全を目的として、公務員等の身辺を「適正評価」の対象にできるとした。
 提出予定の法案では、情報保全領域をサイバー・AI・宇宙領域などの経済安保にまで広げ、「適正評価」を「セキュリティクリアランス」(SC)と規定して、民間企業等の従業員の身辺までSCの対象にできるようにする。この法案は、政府が設置したSC有識者会議の「最終とりまとめ」や「自民党の提言」などを基に作成される。

米と軍産情報一体化

 「経済安保版秘密保護法案」の国会提出に反対する集会が1月29日、衆院第二議員会館で行なわれ、約60人が参加した。主催は、「経済安保法に異議ありキャンペーン」と秘密保護法対策弁護団。
 東北大学名誉教授の井原聰さん(科学技術史)は、今回の法案を考えるに際し、22年5月に制定された経済安保推進法の中に仕掛けられた「経済の国家統制」「防衛装備(兵器)の開発」「アカデミア(大学など研究機関)の軍事動員」に注意を促し、「米国と歩調を合わせることが大前提になっている」と指摘した。
 井原さんは、この法案でSCの対象が民間企業や大学等研究機関にまで広げられることについて、「今後、科学・技術が国家に従属し、科学者や技術者の軍事動員が戦前のように展開していく」と警告した。
 さらに、井原さんは次のように語った。
 「このままでは、政府にとって都合の悪い情報が隠ぺいされて、民主主義は破壊され、監視社会になってしまう。情報まで含めて米国と一体化し、大軍拡政策の中で、軍事産業の基盤づくりが目指されるようになる」

秘密保護法の増強

 秘密保護法対策弁護団事務局長の海渡(かいど)双葉弁護士は、同法案について、「本質は経済安保版の秘密保護法案であり、秘密保護法と全く同じ構図だ。要は、経済情報も秘密保護法の対象に加えるということだ」と指摘した。
 SCの評価基準には、秘密保護法の規定と同様に、特定有害活動やテロリズムとの関わりのほか、犯罪歴や精神疾患・飲酒癖・薬物濫用歴や金融信用情報、さらには配偶者の国籍など外国との関係も含まれる。
 その際、本人の家族・親族・同居人・上司・隣人・知人なども調査対象になることがある。
 SCの際には「本人の同意が必要」とされるが、海渡双葉さんは「この法案が通れば企業側の人間が対象の大半となり、事実上、断れなくなるのでは」と懸念を示した。
 また、会場からの質問に応える形で、「政府が民間企業から提供を受けて保有するに至った情報」について、海渡双葉さんは次のように語った。
 「SC有識者会議の中で、何らかの付加価値が付いた場合には秘密指定の対象となり得ると言っている。だから、『保有』というのはかなりダウトだ(疑わしい)」

戦争への道の仕上げ

 続いて海渡雄一弁護士が、秘密保護法について、「ものすごく反対運動が強かったせいで、(政府など推進側にとって)使いづらい法律になっている」と指摘した。その上で、今回提出予定の法案について、「(SCの)適用範囲を秘密保護法より大幅に拡張した上で、厳罰化はそのままにしようとしている」と注意を促した。
 さらに、22年末に閣議決定された安保関連3文書の中で「中国は日本の敵」という趣旨が規定され、経済安保推進法と相まって、日本政府は中国系のITシステムなどを締め出そうとしている、と指摘した。
 21年6月制定の重要土地利用規制法もこの一環であり、この流れの中に今回の法案があるという。
 その上で、海渡雄一さんは「このままでは、戦争への暴走を止められなくなる」と警鐘を鳴らした。