【スクープ】文科省が教科書会社に訂正指示 「従軍『慰安婦』」⇒「慰安婦」「強制連行」⇒「徴用」
(社会新報2021年6月23日号1・2面より)
文部科学省が5月18日、オンライン会議において、教科書出版社各社に対し、中学・高校教科書の「従軍『慰安婦』」と「強制連行」等の記述を、4月の閣議決定した答弁書に合わせてそれぞれ「慰安婦」と「徴用」に訂正するようにと事実上の指示を行なっていたことが分かった。
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関係者の証言によると、オンライン会議を主催したのは同省初等中等教育局教科書課。同課は各社に対し、前記の内容の訂正を、省側に自主的に申請した形式を取るよう、口頭で求めたという。すでに検定を通った教科書の記述について、教科書検定調査審議会を飛び越えて各社に訂正を働きかけるのは異例だ。
全国の高校では現在、見本版が送られて選定作業が進んでいるが、来年から使用される「歴史総合」では、7社12種類のうち「従軍慰安婦」の記述があるのは2社2種類、「強制連行」などは6社11種類だ。ある教科書会社の関係者は、匿名を条件にこう語る。
「文科省のオンライン会議に呼ばれたのは、教科書会社の役員・部長クラス。今回の狙いは、山川出版社の中学『歴史』と高校『歴史総合』です」
「省側は国会の一連のやり取りと4月の閣議決定を解説し、あくまで会社側から省に6月中に訂正を申請した形にするよう、その手続きまで説明しました。訂正申請をした場合、自社の『歴史総合』を採択した学校に訂正文書を送るようにとの要請もありましたね」
矛盾だらけの閣議決定
今回の問題の発端は、菅義偉内閣による4月27日の閣議決定にある。政府は日本維新の会の馬場伸幸衆院議員の質問主意書への答弁書で、従軍「慰安婦」に対する「強制性」を認めた1993年の「河野談話」を「継承している」と表明した。
一方で、従軍「慰安婦」が「『軍より“強制連行”された』という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和五十八年に『日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした』旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社により、事実であるかのように大きく報道されたことにある」と断定。
その上で「政府としては、『従軍慰安婦』記述を用いることは誤解を招くおそれがある」との理由で、「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」と閣議決定した。
萩生田光一文科相は5月12日の衆院文部科学委員会で、「今回の閣議決定によって、強制性のある慰安婦等については今後その記述がなくなっていくんだろう」と強調。さらに、「歴史的に確認できていることについては、政府として認めたものについてのみ教科書には記述をしようということをルール化しまして、その後正常化をしてきた」などと答弁している。
萩生田大臣答弁は誤り
この「ルール」とは、萩生田文科相と共に「自虐史観の一掃」を唱えている自民党の下村博文政調会長が文科相だった当時、同省が14年1月に決定した「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それに基づいた記述がされていること」という「政府見解条項」を指す。だが、この「条項」に照らしても、萩生田文科相の答弁は誤りだ。
まず、文科省自身が、「(政府見解と)異なる考え方を記述してはいけないということまで求めてはいない」(13年11月20日の検定審議会での教科書課員の説明)としており、政府見解のみしか記述できないとの立場ではない。
次に、同「条項」の「最高裁判所の判例」に即せば、従軍「慰安婦」3人を含む「韓国太平洋戦争犠牲者遺族会」が1991年12月、日本政府を相手取って東京地裁に補償を請求した訴訟で、04年11月29日の最高裁判決文に「軍隊慰安婦」という用語が使われている。
最高裁判決「強制連行」
4月27日の閣議決定では、やはり馬場議員の質問主意書に答える形で、「朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、これらの人々について、『強制連行された』若しくは『強制的に連行された』又は『連行された』と一括りに表現することは、適切ではない」として、「『徴用』を用いることが適切である」という内容も含まれていた。
だがこれについても、太平洋戦争中に広島市の旧三菱重工の工場で韓国人の元徴用工40人が原告となり、国や同社損害賠償を求めた訴訟で、最高裁の07年11月の判決文の冒頭に、「朝鮮半島から広島に強制連行され」たとの記述がある。
萩生田文科相と文科省は、菅内閣が戦前の加害責任を意図的に薄めるような歴史認識を閣議決定したのを幸いに、14年の「政府見解条項」にも合致していないやり方で、教科書会社に対して、実質的に教科書の記述変更を押し付けたのだ。
文科省は今回の会議の目的について、本紙の質問に対し、「質問主意書答弁書の内容等について確実に把握し、必要に応じて当該規約に則り訂正申請することができるよう、発行者への所要の連絡等を行なう一環として実施した」と回答している。
右派が神奈川県教委に圧力-萩生田文科相と連動し介入-
現在、閣議決定や萩生田文科相の答弁を悪用し、右派勢力が「歴史総合」の採択でも動き出している。
神奈川県では5月26日、右派団体「教育を良くする神奈川県民の会」が神奈川県教育委員会に、①「従軍慰安婦」という用語の記述があるもの②「慰安婦」が「強制連行」されたように表現しているもの③戦時の「募集」「官斡旋(あっせん)」「徴用」による労務を「強制労働」などと表現しているものなどに該当する「高等学校歴史教科書」については、「採択しないでいただきたい」とした内容の請願を提出した。
県教委は同日の臨時会で継続審議にすることを決定したが、今後、各地でも似た動きが活発化しそうだ。
教科書問題に詳しい、琉球大学の高嶋伸欣名誉教授の話。
「『つくる会』は以前から、『慰安婦』という記述すら教科書から一掃するよう運動してきました。ところが同会が編集に加わった自由社の中学歴史教科書が19年の検定で不合格となる一方、合格し、現在使用されている山川出版の教科書に脚注で『いわゆる従軍慰安婦』という記述があるのに腹を立てた。それで山川出版を集中攻撃しようと、同じ歴史修正主義者の萩生田大臣や維新の議員に働きかけたと思われます」
「これは、大変な問題です。萩生田大臣が歴史的事実を無視し、『政府見解条項』すら逸脱して、右派と一体になって教科書記述を変えようとしており、文部官僚も教科書会社に圧力をかけたと言えるでしょう。こんなことが許されれば、権力の恣意(しい)的な教育介入が恒常化しかねません」
4月の閣議決定は、「吉田証言」によって「従軍慰安婦」という名称が生まれたかのような文面になっているが、「いわゆる従軍慰安婦」という記述がある「河野談話」が作成された過程で、「吉田証言」は資料として使われていない。「河野談話」が軍の関与を認めたのは、インドネシアにおけるオランダ人女性を強制的に「慰安婦」にして日本軍が暴行した「スマラン事件」の資料等が見つかっていたからだ。『朝日新聞』は14年に「吉田証言」を取り消したが、軍関与の事実は動かない。
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