社会新報

【主張】過労死防止法施行10年 ~「大綱」の取り組みをすすめよう

(社会新報9月5日号3面より)

 

 政府は8月冒頭、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更を閣議決定した。「大綱」は、2014年11月に施行された「過労死等防止対策推進法」に基づく取り組みを定めるもので、おおむね3年ごとに見直すこととされている。法施行(14年11月)後の15年7月に定められ、18年、21年に続き、今回は3度目の変更だ。
 過労死等防止対策推進法は、超党派の議員立法で、全会一致で制定され、「過労死」などを防ぐための国や自治体、事業主などの責務を定めている。過労死等防止対策推進協議会の設置、必要な調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体への支援などを規定しており、「大綱」はその実施計画に当たるものだ。
 今回の見直しでは、「大綱」策定10年に向けた振り返りと対策の推進を明記した。①時間外労働の上限規制の順守②フリーランス対策の強化③芸術・芸能分野を重点業種等に追加することーーなどの内容だ。
 24年4月に全面適用となった時間外労働の上限規制順守の徹底、フリーランス・事業者間取引適正化法(24年11月施行)の履行確保など、労働法制の網を逃れようとする事業者に先手を打つ対策は重要だ。問題を繰り返し発生させる企業への指導も強化する。また、芸術・芸能分野の重点業種等(運転手、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界)への位置付け、労働時間把握が自己申告制である労働者に焦点を当てた調査、勤務間インターバル制度についての数値目標も設定する。今回の「大綱」強化を歓迎したい。
 厚労省によると、22年度に週60時間以上働いた労働者は9%未満で、10年前の14%から減少した。法定の有給休暇取得率も4割台から6割台に高まるなど、企業と労働者の意識が変わりつつあるようにも見える。しかし一方では、労災の認定件数はこの10年で1・4倍に増え、23年度に過重労働やストレスが原因と認定された労災は過去最多の1099件に達している。長時間労働やハラスメントに追い詰められ精神を病む労働者が増えているのは看過できない。
 15年の電通の女性社員の過労自殺事件を契機に労働基準法が改正され(19年施行)、時間外労働の上限が規制されたが、その効果はまだ表れていない。人口減少や人手不足を理由に過労死対策を後退させることがあってはならない。