
衆院選候補らの第一声を聞く市民たち。(1月27日、新宿駅南口前)
21世紀の翼賛体制に抗すために
新潟国際大学教授 佐々木寛さん
ちまたで不正選挙が疑われるほどの圧倒的な自民勝利だった。しかしこの勝利にもっとも慄(おのの)いているのは、実は高市首相本人なのかもしれない。「日本を再び世界の高みに押し上げる」といった一連の大言壮語は、有権者の圧倒的期待とともに、今後自らの政権運営にはね返ってくる。
選挙中、首相が振りまいた「世界の真ん中で咲き誇る日本」の幻想は、ただでさえ破綻までの時間稼ぎにすぎなかったアベノミクスの焼き直しなどでは到底実現できるわけはなく、米国と約束した大軍拡のせいで、国民に約束した減税すらすぐにできなくなると言い出すだろう。民衆の期待は、ひとつの失策で明日にはすぐにでも冷めてしまう。圧倒的支持は常に反転の契機を内包している。
残念ながら、今後、高市政権が進めようとする軍国主義化や憲法改正の暴挙を、国会内で押しとどめる多くの力が失われた。しかし、それに対抗する「野党性(Opposition)」は、国会の壁を突き破って、その外側にもしなやかに展開するだろう。市民社会の力を信じる私たち主権者は、この国がこのまま奈落の底に行く前に、破滅への道に代わる「信じられる未来」を共に構想し、その実現のためにまた道端から動き出すことができる。
SNS時代の公正選挙を問う
東京新聞記者 望月衣塑子さん
自民が歴代最多の3分の2超の議席を得て圧勝した。「女性初の首相」「新鮮さ」を前面に出したイメージ戦略に徹し、ネット広告と動画発信に億単位のカネを投入したとみられ、若年層や無党派層を取り込んだ。
今回、約30ヵ所の街頭演説を取材した。高市早苗首相が登場すると、タレントを撮るように聴衆がスマホを向ける。「国論を二分する政策」には踏み込まず、前向きな短いメッセージの繰り返し。2024年夏の「石丸旋風」を参考にしたのだろう。
中道は惨敗した。支持団体以外への浸透は時間が足りず、立憲支持者の一部は、安全保障の方針に反発して離脱してしまった。
有権者が政治に期待するのは「ワクワクする未来の物語」なのに、党の顔が「高齢男性5人=5爺」。ネットでの発信も見せ方も下手だった。都市部では新しさを求めた有権者が「チームみらい」に流れた。
近年、選挙中だけネットを盛り上げて「勝ち逃げ」する手口が続く。後から正気に戻っても、渡した「白紙委任状」は取り戻せない。政権が資金力にものをいわせて選挙で広告を大量に流せば、権力は固定化する。メディアが注視しなければならない。SNS時代の公正な選挙制度についても国会で議論すべきだ。
カギ握る市民からの運動を
ジャーナリスト 竹信三恵子さん
今回の衆院選の惨敗は、野党が「生活を守る」というまともな政策にリアリティーを持たせることができず、有権者が「排外主義」と「高市信仰」の心地よさに引き寄せられた結果だ。
高市首相は青いスーツとドラマー姿と笑顔でテレビやSNSに頻出し、「ジェンダー平等」の幻影を広く拡散してみせた。これに対し、中道改革連合は年配男性5人が並んだ姿で報道され「5G」(5人のジジイ)とやゆされるなど、既成野党はむしろ日本社会の閉塞感を体現してしまった。
自民の公約からは、軍拡と社会保障の大削減やスパイ防止法の制定などが垣間見えた。ところが「中道」は格差の拡大と言論弾圧などを争点化できず、「生活を守る」のスローガンとは裏腹に、原発と集団自衛権容認を打ち出してしまったちぐはぐさも不信を招いた。
投票日直前にXでトレンド1位入りした「#ママ戦争止めて来るわ」や、社民党の動画のような、ジェンダー平等をイメージさせつつ静かに反戦を訴える主張を最初から拡散し、かつ比例名簿でそうした主張を体現する女性や若手議員を上位に置いていれば、違った展開があったのではないか。
現場の社会運動を支えた多くの良心的な議員を失い、市民と国会のパイプが極端に細くなった今、私たちは、国会を監視し、外から声を伝える社会運動のネットワークの再構築・強化へ向けて出直すしかない。野党は市民の主張をまとめて力にしていくことを主眼とした再編に取り組むべきだ。
ブレない政治貫けば道開ける
政治評論家 角谷浩一さん
「こんな選挙初めて」というのが、選挙に関わってきた人、有権者の率直な感想だろう。有権者の混乱がそのまま投票行動につながったとは言えまいか。他党ながら中道改革連合が選挙直前に発足。今まで立憲民主党が守ってきた「原発ゼロ」と「辺野古基地移設反対」を「現実路線」と称して捨て、中道路線を名乗った。しかし自民党高市政権は「核武装」「核不拡散防止条約破棄」「憲法改正」と戦後80年の積み重ねを破壊する方向にかじを切り、戦後から「戦前元年」に変えることをもくろんでいる。中道は第2自民党と言われても仕方がない。
こうした事態への怒りの象徴が、沖縄2区の瑞慶覧長敏さんのやむにやまれぬ出馬だろう。当然、今秋の沖縄知事選に悪影響があるという声もあったろう。だがそれが政治の筋というものだ。図らずも鳩山由紀夫元首相が瑞慶覧さんの応援に入った。思えば09年の鳩山政権で福島みずほ党首は入閣したが、内閣が辺野古移設を決めたことに反発し罷免された。双方、思いは同じだが苦渋の選択だった。鳩山さんの応援はあの時の借りを返しに来たのだろう。政治家の矜持を感じる。結果、新基地建設に反対する沖縄の衆院議員はゼロに。理想だけでもダメだが理想を捨ててもダメ。改革野党が協力してブレない政治を貫けば道は開ける。政治は可能性の追求だ。
次期参院選までに展望の風を
弁護士 杉浦ひとみさん
自民310議席超えの最大の恐怖は、法案に参院が異議を出しても、衆院の再議決で通ってしまうこと。さらに本会議に先立ち法案を実質審議する委員会は、261議席の絶対安定多数ですべての委員会を牛耳ることができる。随意の法案を国会に提出し、数の力で成立させる。安倍元首相らが野党議員の真剣な質問に回答せずに議論をはぐらかした「ご飯論法」という国会軽視の悪夢が蘇る。
他方、主権者は狭い情報、SNSのエコーチェンバー(私のSNSでは世間は全員レフトだ!)に閉じ込められている。加えて2028年には放送局の許可更新があり、過去に停波発言を行なった高市首相の下では、放送局の自粛と画一化が懸念される。ちまたには政府に都合がいい情報しか流されず、日本語の情報しか得られない私たちは、世界から取り残される。
勇ましい高市首相の台湾有事発言は、1972年の日中共同声明(戦争賠償の免除を得て、台湾への不干渉を約束した歴史)を顧みない愚行であり、中国との関係悪化を改善しないことは、安全保障にとって何より危険だ。移民反対で固めたつもりが、積極財政で赤字国債乱発、経済の国際的信用が落ちれば円安になり、外国人労働者は日本を去り、日本の若者さえ海外出稼ぎの労働力不足の危険まで。早く立ち上がるしかない。