(社会新報2022年4月13日号1面より)
自身を誹謗(ひぼう)中傷する内容のツイート(ツイッターの投稿)に「いいね」を押され、名誉を傷つけられたとして、ジャーナリスト伊藤詩織さんが自民党の杉田水脈衆院議員を相手取り計220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、3月25日に東京地裁であった。武藤貴明裁判長は、「『いいね』は抽象・多義的な表現行為で、特段の事情がなければ違法ではない」として伊藤さんの請求を棄却した。伊藤さんは判決後、「裁判所がセカンドレイプを許しているような気持ちになった」と述べ、東京高裁に控訴する意向を示した。
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杉田氏は2018年6、7月、ツイッター上にあった「レイプの事実関係が怪しすぎる」「ハニートラップを仕掛けた」など伊藤さんを中傷する25のツイートに「いいね」を押していたが、被告の杉田氏側は「いいね」を押した理由について、「後から読み返すためにブックマークしたもの」「好感を宣言して明らかにする意図はなかった」など反論。請求棄却を求めていた。
判決はまず、杉田氏の反論については「『いいね』が好意的・肯定的な感情を示したと一般的には受け止められる」として退ける一方、「いいね」を押すことについては、必ずしもツイートの文面全体への好意・肯定を示しているとはいえず、「抽象的で多義的な表現行為にとどまる」ものと判断。
その上で、「いいね」を押すことによる違法性が問えるケースについて、「いいね」の対象がはっきりしていて明らかに侮辱的だったり、他人に害を与える目的で繰り返し何度も「いいね」を押したりするなど、「特段の事情」があるときに限定される、との基準を示した。
判決はその基準を当てはめ、杉田氏の「いいね」は「中傷ツイートのどの部分か、どの程度の感情で押されたかが特定できない」と指摘。25回押したことは「執拗(しつよう)にくり返されたとまではいえない」「伊藤さんに害を与える意図があったとはいえず、特段の事情がない」として、請求を棄却した。
杉田氏『いいね』は100回裁判所は本人尋問を認めず
閉廷後の午後4時過ぎから行なわれた会見で、原告代理人の佃克彦弁護士は「訴訟では特に内容がひどい25件を取り上げたが、実際には『いいね』は100個も押していた」と述べ、執拗にくり返されていたと指摘した。また、杉田氏は中傷ツイートに「いいね」を押しただけではなく、伊藤さんを批判するブログや動画も作成していたといい、佃弁護士は「こうした一連の行為を評価せずに請求を棄却したのは甚だ遺憾だ」と批判した。
弁護団によると、今回の判決は、杉田氏が誹謗中傷ツイートのどの部分に「いいね」の感情を込めたのか、感情の程度がどれほどだったのかを特定しないまま棄却したという。一方で、原告側が申請した杉田氏の本人尋問は認められなかったといい、佃弁護士は「尋問を認めずに判決で『特定できない』とするのはアンフェアだ」と批判した。
一方、伊藤さんは会見で、ツイッターなどの巨大プラットフォーマー(ネット上でサービスを提供する企業)による誹謗中傷・名誉毀損の防止策が進まず、法整備も追いついていない現状を問題視。「感情に訴える侮辱的なツイートは、そうでないものに比べて13%リツイートが増えるという調査結果がある」とデータを示した上で、「女性たちへの『ネットいじめ』が、今やビジネスになってしまっている。プラットフォーマーが行動してほしい」と訴えた。
荻上氏「司法判断がネット空間変えた」
社会調査支援機構チキラボ(代表・荻上チキさん)も提訴後に別途会見し、伊藤さんについて言及したツイートの傾向について、分析結果を公表した。性暴力被害や誹謗中傷についての訴訟を重ねるうちに、伊藤さんへの誹謗中傷やネガティブな内容のツイートが目に見えて減っているという。
チキラボは、伊藤さんが性暴力被害の告発会見を開いた2017年9月から今年2月にかけて、提訴や判決、特集番組放送など17のイベントを選び出し、それぞれの前後3日間で伊藤さんについて言及のあったツイート約12万6000件を収集。うち9000件をランダムに抽出し、目視で分析した。
その結果、伊藤さんが元TBS記者の山口敬之氏を提訴した直後は全体の90・9%を占めた誹謗中傷・ネガティブな投稿は、19年7月の口頭弁論直後には15・3%に低下。東京地裁で伊藤さんが勝訴した19年12月は9・7%まで減っていた。また、名誉毀損訴訟でも同じ傾向にあり、漫画家のはすみとしこ氏を訴えた20年6月には13・4%だったが、この裁判の東京高裁判決が出た22年1月は7・6%に減っていた。
荻上さんは「山口氏との裁判の一審勝訴の後に名誉毀損訴訟も始まり、世間では『これはアウト』というメッセージが広がった結果、中傷ツイートの頻度が減った」と話す。中にはアカウントごと削除されたものもあるといい、「司法判断が続き、『攻撃抑制規範』が高まったのでは」と分析している。
↑判決後に会見する伊藤詩織さん(3月25日、都内)。
↑左から西広陽子弁護士、伊藤さん、佃克彦弁護士(同)。
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