(社会新報2022年5月18日号3面【主張】より)
北海道・知床半島沖を航行していた観光船「KAZU1」(19㌧)から4月23日、第1管区海上保安本部に救助要請があり、約1時間後に連絡が途絶えた遭難事故が発生した。
乗客乗員26人のうち、死者が相次いで確認されているが、いまだに行方不明者が12人。その捜索を続けるとともに、事故の再発防止のために、事故原因の徹底究明を求めたい。
知床半島は、北海道東部の斜里町と羅臼町にまたがる、オホーツク海の南端に突出した半島で、一部が世界自然遺産に指定されている。キタキツネやヒグマなどが生息しており、船上からそうした野生動物や滝の絶景などを見学することができ、人気が高い。
知床半島はオホーツク海に突き出していることから海洋の影響を強く受け、潮の流れが複雑で、操縦には熟練した経験が求められる。
事故当日の朝は波浪注意報や強風注意報が発表されており、午後にかけて海の状況がさらに厳しくなるとの予報であり、出航は常識的にはあってはならない。
観光船の運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長が事故発生から4日後の27日、斜里町内で初めて記者会見した。社長は、朝の打ち合わせで船長から「出航は可能」と言われ、海が荒れたら引き返すとの「条件付き運航」を決めたと説明した。強風、波浪両注意報が出ていたことは把握していながら、自分で海の状況を見るなどして問題ないと判断したという。会見で社長の判断の誤りと運航・安全管理体制のずさんさが浮き彫りとなった。
観光船の経営者は数年前に代わり、事故を起こした船長が就職したのも約2年前で、オホーツク海での操縦に熟練していたとは考えにくい。経験の浅い船長に厳しい予報下での出航を強いたといえるだろう。
国交省は4月28日、小型船の旅客輸送の安全対策を考える有識者会議の設置を決めた。▽運航の可否に関する判断の適正化▽船長になるための運航経験などの技量向上 などを検討事項に挙げ、5月11日に初会合を開いた。
5月9日には新たな事実が判明した。運航会社が、船との連絡に安全管理規程で定めた業務用無線ではなく、アマチュア無線を使用し、昨年、国交省から行政指導を受けていたのである。検証が求められる。
惨事を二度と繰り返さないために、厳格な対策を急がねばならない。
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