(社会新報11月9日号1面より)
パレスチナ自治区ガザを拠点とする現地武装勢力ハマスの襲撃に対するイスラエルの激しい報復で、ガザの人々は深刻な人道危機に直面している。この危機に、国際社会はどう向き合うべきか。ガザ取材経験があるジャーナリストの志葉玲さんが寄稿した。
かつてない規模の攻撃
ガザを初めて訪れた2000年以後、4回現地を取材しているが、今回のイスラエルの攻撃の規模は、それまで最悪とされた2014年夏のガザ攻撃をはるかに上回るものだ。同年の攻撃では、空爆と地上戦が50日間続き、ガザ側の犠牲者は約2250人だった。だが、今回は10月7日の空爆開始から本稿を執筆した同28日まで、7000人以上の人々が殺されている。
現在、外国人記者はガザに入れないため、現地知人の連絡やSNSなどから情報を得ているが、ガザの状況はまさに地獄のようだ。ある知人は「住宅が空爆で倒壊。生まれたばかりの娘を失った」と憤る。別の知人も「いとこが3人の子どもと共に殺された」と嘆く。彼らは一般市民であってハマスの戦闘員ではない。ジャーナリストや医療従事者、国連職員らも相次いで命を落としている。イスラエル軍は、ガザ北部の110万人の住民に対し、避難指示を出したのが、ガザ中部。南部も空爆され続け死傷者が続出。避難所である国連管理の学校まで攻撃される。ガザのどこにも安全な場所は無い。
国際人道法に従え
ガザへの広範で無差別な空爆は、たとえ戦争中であっても民間人を殺害してはいけないとする国際人道法に反している。国連のジェノサイド防止担当事務総長特別顧問は10月16日、その声明で、イスラエル側とハマス側の双方を強く批判。「国際法が優先されなければならず、罪のない民間人が紛争の代償を決して支払ってはならない」と強調した。さらに10月17日、国連人権事務所はイスラエルによるガザ包囲と同地への避難命令について「人道に対する罪」だと厳しく批判している。
これらの国連機関の主張は真っ当なもので、日本もこれを支持すべきだ。イスラエルとハマスのどちらが悪いかに関係なく、双方が国際法・国際人道法に従うべきなのである。従って、イスラエルは空爆を停止し、ガザの人々への援助物資の運び入れを妨害してはならない。ハマスもロケット弾の発射をやめ、すみやかに人質を解放すべきだ。
「天井の無い監獄」
イスラエルでは、ハマスへの報復感情が強く、同国のヘルツォグ大統領も「ハマスを支持していたガザの一般市民にも責任がある」などと発言しているが、ハマスとガザの市民は切り分けて考えるべきである。パレスチナ自治区ではガザを含め2006年以降、選挙が実施されておらず、直近のガザでのハマスの支持率も3割程度だ。今回の大規模襲撃も、ガザの人々は事前には知らず、決定権も無かった。ハマスの蛮行は許されないが、ハマスが過激化していった経緯にイスラエルや米国の政策も無関係ではない。1993年、ノルウェー外相の仲介でまとめられたオスロ合意で、将来のパレスチナ国家建設と、イスラエルとの共存が約束された。だが、イスラエルは、和平派のラビン首相(当時)が国内極右の青年の凶弾に倒れた後、ヨルダン川西岸に次々に入植地を建設するなど、オスロ合意をほごにする振る舞いを続けてきた。また、イスラエルはハマスの創設者で停戦を主張していたヤシン師を、2004年に空爆で殺害。あくまで力でパレスチナ側を抑え込んでいく姿勢をあらわにした。
ガザは07年以降、人や物資の出入りが厳しく制限され、「天井の無い監獄」となった。住民の3分の2が貧困または深刻な貧困にあえぐようになり、18年にはガザ封鎖反対の大規模なデモが行なわれたが、イスラエル軍は人々に実弾を浴びせ、多数が死傷した。これらのイスラエルの振る舞いを米国は擁護し、年間38億㌦の軍事支援も続けてきた。まずは停戦が必要だが、米国もこれまでの政策を改め、イスラエルとパレスチナ双方がオスロ合意へ回帰するよう後押しすべきだ。