社会新報

【主張】政府が政府が原発新増設方針 ~福島原発事故の反省はどこへ行ったのか

(社会新報9月7日号3面より)

 岸田文雄首相は、8月24日に首相官邸で開かれた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」にオンラインで出席し、次世代型の原子力発電所の開発・建設などの方針を表明した。岸田首相は「再生可能エネルギーや原子力はGXを進める上で不可欠」として、「次世代革新炉の開発・建設を検討」と「(原発の)運転期間の延長」について検討し、「再稼働した10基に加え、7基の再稼働に向けて国が前面に立つ」などと明言した。
 これが正式に決まれば、「原発の新設は想定していない」としてきた従来の政府方針を大きく転換することになる。ロシアのウクライナ侵攻後のエネルギー調達の混乱などによって電力の安定供給が危ぶまれていることと脱炭素を理由に、福島第1原発事故以降の抑制的な原発政策が転換される。
 再稼働する原発は2023年夏以降に最大17基に増やし、原則40年・最長60年と法律で定められている運転期間の延長も検討する。年末までに具体策をまとめる。
 近年、老朽化した火力発電所の休廃止が相次ぎ、世界的なエネルギー調達の不安定もあって、エネルギー供給の不足が指摘されていたことは事実だ。参院選では日本維新の会、国民民主党などが原発再稼働の必要性を声高に訴えた。自民党も参院選公約から「可能な限り原発依存度を低減」という文言を消し、「最大限の活用を図る」と原発回帰の姿勢を強めていた。
 首相の言う「次世代革新炉」とは、従来の原発よりも耐震性を強化し、炉心を冷却する手段を増やすなど安全性を高めたものだというが、その詳細は不明だ。
安全性を高めることができたとしても、事故のリスクはゼロにはならない。「核のごみ」と呼ばれる原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物の処分方法の見通しも立たないままだ。
 日本は福島第1原発事故で、原発の危うさを学んだはずではなかったか。ひとたび事故やトラブルが起きれば、影響は甚大で長期に及ぶ。原発回帰が安定供給につながるとは限らない。
 そもそも現行のエネルギー基本計画は、原発の新増設・リプレースに言及しておらず、唐突な首相の言葉で決めるような話ではないだろう。
 国民不在の方針転換は、政治への信頼を失わせるだけである。再生可能エネルギーを含めた多様な供給体制を構築することこそが求められている。