社会新報

【ウクライナ侵攻から半年】現地取材した志葉玲さんが報告 ~戦争被爆国・日本の役割が重要

攻撃されたウクライナのハルキウ市内の病院。

ハルキウ市内の地下鉄構内に避難するウクライナ人家族。

 

(社会新報9月7日号1面より)

 今年2月24日にロシア軍がウクライナへ侵攻してから半年余り経つ。依然、戦闘は収まる気配もなく、ウクライナ東部や南部でのせめぎ合いは続いている。(ジャーナリスト・志葉玲)
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 この4月、私が現地取材を行なった同国第2の都市ハルキウも、厳しい状況だ。日本に避難してきた20代のウクライナ人女性は「ハルキウやその周辺は、連日、ロシア軍による砲撃やロケット弾攻撃を受けています。私の兄も先日殺されてしまいました…」と嘆く。今後の展望も見えないまま、ウクライナ側、ロシア軍側、双方の犠牲者が増えている状況だ。
 プーチン大統領とすれば、完全にもくろみが外れたのだろう。当初、数日で首都キーウを陥落させるはずが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、また同国の人々の結束もかつてないほど強いものとなった。プーチン大統領自身やロシアにとっても、この戦争は何も得るものが無く、失ったものはあまりに大きい。一刻も早く、自らの誤りを認め、戦争を終わらせるべきだ。

親ロシア市民らの苦悩

 思い出すのは、ハルキウで会った青年イヴァンさん(仮名)のことだ。彼はウクライナ人であるが、戦争前はロシアで暮らし、同国の女性と結婚した。イヴァンさんは「僕にとって、ロシアの社会や文化は僕のアイデンティティの一部。それを否定するような、この戦争が憎い」と語った。
 ハルキウはロシアとの国境に近く、人的交流も盛んだった。友人や仕事仲間としてお互いと付き合い、イヴァンさんがそうであるように、ウクライナ人とロシア人の結婚も珍しいことではなかったのだ。その親ロシアの都市で、市庁舎や病院、学校や一般の住宅に、無差別にロシア軍のロケット弾や砲弾が降り注ぎ続けている。こうした仕打ちをウクライナの人々は忘れないだろう。

志願兵「最後まで戦う」

 ハルキウでは、ウクライナ軍に志願した男性たちにもインタビューした。その中の一人、レオニードさん(仮名・40歳)は、「軍の任務が危険なことは分かっている。でも、われわれが勝つまで戦う」と言っていた。彼の意志がゆるぎないものであるのは、ゼレンスキー大統領の呼びかけによるものではなく、「1歳と8歳の娘たちを守るためだ」とレオニードさんは言う。実は、先に本紙にも寄稿したように、このインタビューの最中、すぐ近くにロシア軍の砲弾が着弾した。あわや、爆発に巻き込まれるところであったが、すさまじいごう音と燃え盛る炎を目の前にしても、レオニードさんの決意には何の影響も与えなかったようだ。彼は、恐らくその言葉どおり、最後まで戦うつもりなのだろう。
 こうしたウクライナ側の「徹底抗戦」に対し、日本のリベラル系の一部には懐疑的な意見があり、しばしば、それはメディア上でも語られる。だが、ウクライナの人々が命を賭してまで戦う必要がないよう、戦争を終わらせるために、全力で働きかけるのが、「平和国家」としての日本の役割ではないのか。ロシアが核兵器で国際社会を威嚇しながらウクライナ侵攻を続けている中で、「ヒロシマ、ナガサキ」の経験を持つ日本こそ、核の脅威を背景にした暴力を許すべきではない。

地下資源を買わないで

 一方で、日本はウクライナ侵攻でロシアを非難しつつも、同国の主要な輸出品である天然ガスや石油、石炭といった地下資源を輸入し続けている。その割合は、いずれも日本の輸入全体の1割前後と大きなものではないが、それによる利益がロシアの戦費になっているのだ。
 ウクライナ侵攻の直後、都内で行なわれた在日ウクライナ人の人々による反戦デモで、ある参加者は「ロシアのガスを買わないで」とのプラカードを持っていた。日本政府は2050年までにCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げており、いずれにせよ、脱炭素は進めていかなくてはならない。ならば、まずロシアから化石燃料を買うことをやめ、その分を太陽光や風力、グリーン水素などの再生可能エネルギーに置き換えていくべきだろう。ロシア軍の侵攻開始当初の衝撃も薄れ、人々の関心の低下も否めないが、むしろ日本がウクライナの平和のためにやるべきことはたくさんあるのだ。

 

ハルキウ市内の保育園も攻撃された。