社会新報

【主張】最高裁トイレ制限違法判決~性自認を尊重する共生社会への第一歩

(社会新報7月26日号3面より)

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 一人ひとりの性自認を尊重する共生社会への第一歩ともいえる、最高裁判所の画期的な判決があった。
 戸籍上は男性で、女性を自認して暮らすトランスジェンダーの経済産業省職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されていることは不当だとして、国に損害賠償と処遇改善を求めた上告審の判決で、最高裁は7月11日、トイレの使用制限を認めた国の対応を違法とする判決を言い渡した。LGBTQの職場環境に関する訴訟で最高裁が判断を示したのは初めてのこと。
 職員は、性同一性障害と診断され、女性ホルモンの投与を受けている。性別適合手術は健康上の理由から受けていない。2010年から女性の身なりで勤務を始めた。経産省はこの職員に対して、執務室のあるフロアから2階以上離れた女性用トイレのみの使用に限定した。人事院は同省の対応を是認する判定を下していた。職員は国の対応は不当であるとして15年に提訴した。一審・東京地裁は、トイレの使用制限は違法と判断したが、二審・東京高裁は逆に違法ではないとし、職員は上告していた。
 最高裁第3小法廷の今崎幸彦裁判長は11日の判決で「職員は性同一性障害との診断を受けており、自認する性と異なる男性用トイレを使用するか、執務階から離れた女性用トイレを使わざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けている」と指摘した。
 その上で、職員の女性トイレ使用でトラブルが生じていないことなどを踏まえ、「人事院の判断は他の職員への配慮を過度に重視し、上告人(職員)の不利益を不当に軽視したもので著しく妥当性を欠く」とし、違法と判断した。5人の裁判官全員一致の結論だった。異例にも裁判官全員が内容を補足する意見を述べ、いずれも性自認の尊重を強く促している。
 判決後に原告の職員が記者会見し、「裁判官の補足意見は、他の人権上の問題にも応用できると思う。自認する性に即した社会生活を送ることが法的な利益であり、トイレやお風呂だけにわい小化されてはならない」と訴えた。
 LGBTQ当事者の団体で構成する「LGBT法連合会」は12日、判決を「評価する」とした声明を発表。社民党の福島みずほ党首も12日の記者会見で判決に賛意を示した。社民党は多様な性自認を尊重する共生社会を目指し、LGBTQ差別禁止法の制定に全力を尽くす決意だ。