社会新報

【主張】マイナ保険証~拙速で強引な普及策は認められない

(社会新報11月2日号3面)

 河野太郎デジタル相は10月13日、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと機能を一体化させた「マイナ保険証」に切り替えると発表した。運転免許証の機能との一体化の時期も前倒しを検討する予定という。
 マイナ保険証は、昨秋から本格運用が始まっているが、これまで政府は、カード取得はあくまで任意であり、マイナンバーカードを持たない人は従来の保険証を使えると説明してきた。法律上もマイナンバーカードの交付は個人の申請に基づくとされ、任意だ。
 今年6月の「骨太の方針」も、将来は「保険証の原則廃止」を目指すとしつつも、「申請があれば保険証は交付される」としており、カード利用が強制ではないことは大前提だ。生活に不可欠な健康保険証と一体化させることは、保険証を「人質」として事実上マイナンバーカード取得を強制することと同じことになる。このような大きな方針転換にかかわらず、国民への納得できる説明はなく、政府内の議論の経緯も分からない。マイナンバー制度への信頼は遠のくばかりだ。
 拙速な方針転換の背後には、マイナンバーカードの普及が進まないことへの政府の焦りがあるだろう。発行開始から7年近くが経っても、多くの国民は、その必要性や利点を感じていない。むしろ、情報流出や個人情報が悪用されるおそれの方を強く感じているのではないか。
 政府は、こうした懸念に誠実に向き合って解消しようとするのではなく、制度の本質と関係のない利益誘導や締めつけ対策してきた。キャッシュレス決済を利用することで「マイナポイント」を付与したり、23年度に新たに設ける「デジタル田園都市国家構想交付金」の配分に、自治体毎の取得状況を反映させるなど、なりふりかまわない姿勢だ。このような「アメとムチ」を使ってもなお、普及率は全人口の半分にとどまり、今年度中に全国民が取得という政府目標にはほど遠い。
 マイナ保険証に対応できる医療機関は約3割程度とされ、マイナンバーカードを持たない人が保険診療から閉め出されるおそれもある。紛失時に、個人情報が流出する懸念も強い。このような中の強権的な普及策は愚策としかいいようがない。マイナンバーカードがどうしても必要というのであれば、ていねいに利点を説明し、不安の解消をはかるのが本道である。