社会新報

【主張】「異次元の少子化対策」~増税で「子育て支援」とは本末転倒だ

(社会新報1月18日号3面より)

 

 

 「異次元の」という言葉がお好きなようだ。
 「異次元の金融緩和」のあとは、「異次元の少子化対策」と来た。SF映画さながらの壮大さと意気込みは伝わるが、中身はいかほどか。1月4日、岸田首相は伊勢神宮参拝後、神宮司庁で年頭記者会見を行ない、「異次元の少子化対策に挑戦する」と決意を表明。2022年の出生数は80万人を割り込み、「これ以上放置できない、待ったなしの課題」と危機感を口にしたが、「いまさらか」と思った人は多いだろう。首相は、①児童手当を中心に経済的支援の強化②幼児教育や保育サービスの量・質両面の強化、全ての子育て家庭を対象にサービスの拡充 ③働き方改革の推進とそれを支える制度の充実  の3つの方向性を示した。4月にはこども家庭庁を発足させ、6月の骨太方針までに、将来的な予算倍増の大枠を提示するとした。
 これを受け甘利明自民党前幹事長が、財源の確保として、将来の消費税増税に言及。防衛力強化のために増税をと言った舌の根も乾かぬうちに、今度は少子化対策でも増税か。増税で子育て支援など本末転倒だ。長年政権を担ってきた同党は、なぜ少子化が深刻になったのか、その理由をどう分析しているのだろうか。団塊ジュニアが生まれた1971~74年、出生数は毎年200万人を超えていた。その世代が出産適齢期のころ、ベビーブーム同様、出生率が上がればよかったがそうはならなかった。
 なぜなら、バブル崩壊後の就職氷河期に直面し、リーマンショック以降の非正規労働が拡大する社会をサバイブしてきたのがまさにこの世代だ。家庭を持ち、子どもを産むことよりも、不安定な雇用の中で生き延びることに必死だった。ロスジェネ世代の困難を政治が放置し続けたことも、少子化を深刻化させた大きな要因だ。首相は「若い世代から、ようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現」すると言った。50代を目の前にしたロスジェネ世代にとっては完全に手遅れだが、次世代のためにも、この世代が経験した政治の失敗を分析し、政策に反映させていくことを強く望む。
 そしてもうひとつ、この国の隅々に根付く性差別が、女性に出産をちゅうちょさせていることを忘れてはならない。女性の人権が尊重されない国で、子どもを産もうとは思わない。日本の少子化対策には、決定的にその視点が欠けているのではないだろうか。

 

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