社会新報

土地規制「区域指定」の中止を~政府担当者へ市民と議員が共同ヒアリング

手前が土地規制法を担当する内閣府職員。向かい側が市民と議員で、中央が杉原浩司さん(10月27日、参院議員会館)。

 

 

 自衛隊基地や原子力施設周辺での土地利用の規制を行なう、重要土地利用規制法(以下、土地規制法)が今年9月に全面施行された。
 10月11日、政府は土地規制候補地58ヵ所を提示。
 米軍基地や原発の反対運動などに重大な悪影響を及ぼす可能性がある同法について、10月27日、市民と国会議員の共同ヒアリングが参院議員会館で開かれ、内閣府の担当者と交渉した。
         ◇
 今年7月から8月にかけてのパブリック・コメント(以下、パブコメ)募集では、土地規制法の悪用を懸念する市民などから、2760件もの意見が寄せられた。また、県内の大部分が土地規制法の対象となる可能性がある沖縄県は意見書を提出した。だが、これらの意見は、今年9月16日に閣議決定された土地規制法の基本方針に全く反映されなかった。
 10月27日のヒアリングでも、パブコメの扱いで紛糾。なぜ土地規制法を懸念する意見が全く反映されなかったのか、市民や国会議員側が問いただした。

パブコメの声を無視

 これに対し内閣府の政策統括官らは、具体的な理由については一切答えず、土地規制法廃止アクション事務局の杉原浩司さんは「いかにパブコメが形骸化しているかが実証された」と憤った。また、政府が公開している経済安保法の1300件のパブコメの要約は、A4用紙に印刷すると94㌻になり、寄せられた意見にも丁寧に応答しているのに対し、土地規制法のパブコメ要約は13㌻と少なく、意見が異なるものも一緒くたにするなど、「非常に雑」と杉原さんは指摘。「どのような意見があったのか、もっと丁寧に紹介してほしい」と要請した。また、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの青木初子さんは「この法律で私たちが、どれほど震える思いをしているか分かっているのか」と訴えた。だが、内閣府側は、「希望者は内閣府に閲覧を申請できる」「新たに(要約をまとめ直す)作業することはない」と、より詳細なパブコメの公開を拒否。
 海渡雄一弁護士が「持ち帰って検討してほしい」と求めても、その場で拒絶する内閣府側に、市民側は「傲慢(ごうまん)だ」と憤った。
 国会から駆けつけてきた社民党の福島みずほ党首も、「パブコメは政府が募集したのだから、その公開も政府の仕事だ」「何のためのパブコメなのか。寄せられた意見の中身を示さないのなら、制度に対する冒とく。かつて原発に関するパブコメでは、内容が不十分だと、公開し直したこともある」と強く求めた。
 注視区域や特別注視区域に指定される地域の地方公共団体に意見聴取することについても内閣府側の不誠実さが目立った。
 市民側が「意見聴取で地方公共団体から指定に反対する意見が出た場合はどう対応するのか。(可否を判断する)第三者機関の設置か行政不服審査法の適用を考えているのか?」と質問したのに対し、内閣府側は「(区域指定は)国が責任を持って判断・実施する」「第三者機関は設置しないし、行政不服審査法も適用外」と、反対意見を無視し、押し切る姿勢を見せた。

担当相答弁と異なる

さらに、意見聴取の内容についても、「注視区域及び特別注視区域に指定する地域にどのような開発の計画があるのか地方公共団体から情報共有してもらいたいと考えている」と内閣府側が回答。これには、海渡弁護士が「もともとは地域の意見も聞くというものだったのに内容が変わってきていないか。調査の対象になっているだけではないのか」と疑問を呈した。土地規制法の国会審議では、当時の小此木八郎・内閣府担当相は「住民に身近な地方公共団体の理解と協力を得ることは重要」「区域指定を行なう前には、十分な時間的余裕を持って、しっかりと意見交換をしていく」と答弁している(2021年5月21日、衆院内閣委員会)。
 杉原さんは「明らかに小此木大臣の答弁と異なる。事務方が大臣答弁を無視するなど、とんでもないことだ」と内閣府側の回答に抗議した。
 土地規制法での刑罰の対象となる「機能阻害行為」とは、具体的にどのような行為かを明示しないのは、罪刑法定主義に反するのではとの質問に対しても、内閣府側は「対象となる施設によってさまざまで、技術の進歩による複雑化・巧妙化が考えられるため、網羅的に列挙することは困難」と明らかにせず、「機能阻害行為だと勧告する際に明示する」と正当化した。
 これに対し、杉原さんは「勧告の前に明示するべきだ」と反論した。
 内閣府側の回答提出や市民側の要望については、福島党首の事務所を通じて、今後もやり取りが行なわれる。

 

メモ 

【重要土地利用規制法(土地規制法)】国が重要とする施設の周辺約1㌔と国境離島を「注視区域」に指定、利用状況を調査し、より重要とされる施設の周辺を「特別注視区域」に指定。土地や建物を売買する前に利用目的等の届け出を義務付ける。これらの施設への「機能阻害行為」に対し、土地利用中止を命令・勧告し、従わなければ刑事罰を科す。また、土地の所有者等のプライバシー侵害も懸念される。