9月5日、トランプ米大統領が米国防総省の呼称を「戦争省」に変更する大統領令に署名し、立法、行政手続きなど必要な措置を指示した。今後、公文書で「戦争省」や「戦争長官」といった呼称を使えるようになる。正式な名称変更には議会の承認等が必要とみられるが、それまでの間も「国防総省」と「戦争省」などは併用されるようだ。
世界各国は第2次世界大戦後、戦争への深い反省から、「国際の平和と安全の維持」を目的とする「国際連合」を設立した。その国連憲章は、加盟国に「武力による威嚇と行使」を原則禁止とした。「平和に対する脅威、破壊又は侵略行為」には安保理が「集団的措置」をとることが原則となった。加盟国に認められるのは「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」の「個別的又は集団的自衛」の権利行使に限られる。この原則は変わっていない。これをより明確に規定し「戦力」の不保持、「交戦権」の否認にまで進めたのが日本国憲法だ。
もちろん、必ずしも世界は国連憲章が想定したとおりに回っているわけではない。残念ながら大国の身勝手な武力行使や、地域紛争は続いている。それでもなお、「戦争禁止」の世界合意は大原則であり、武力行使の多くが、なお「自衛」のためと説明されている。
こうした背景から、世界の多くの国々で武力を司る組織が「防衛」と称されるようになった。米国も建国後まもない1789年に戦争省を創設したが、第2次大戦後の1947年に国防総省に改めた。当時のトルーマン大統領は、「平和と安全の達成」に資する改革として「戦争省」の呼称をやめたと明言し、戦争省創設200年に当たる89年には、ブッシュ(父)大統領が「戦争省は今では時代錯誤的で、好戦的な響きさえある。(略)国防総省の名がふさわしい」と演説している。
「力による平和」を掲げ、なにかにつけて軍隊を動員したがるトランプ氏は、紛争が広がる最近の情勢を考えれば「戦争省」が適切だと強弁している。しかし自らの「力」を過信し、ベトナムやイラク、アフガニスタンなどで無謀な戦争を重ねてきた米国の歴史から学んでほしい。国際紛争の解決には、ていねいな調整・対話の積み上げが必要であり、露骨な力の誇示で解決することは難しい。トランプ氏の乱暴な名称変更は、世界を不安にするだけだ。(9月25日号)