(社会新報11月16日号3面より)
10月25日、最高裁大法廷で画期的な判断が示された。出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更する際、生殖能力を失わせる手術を必要と定める「性同一性障害特例法」の「生殖不能要件」について、違憲であり無効であるとする判断だ。
現在、トランスジェンダーの人が性別変更をするには、「特例法」が規定する5つの要件、①「18歳以上」②「現在、結婚していない」③「未成年の子がいない」④「生殖不能要件」⑤「外観要件」ーーを満たす必要がある。今回、違憲とされた「生殖不能要件」は、卵巣や精巣の摘出手術を迫られるもの。最高裁は憲法第13条が保障する「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を制約しているとした。また、「特例法」の制定時に目的としていた性別変更前の生殖機能で子どもが生まれた場合に社会で混乱が生じることは「極めてまれ」であり、さらに社会の理解が広がり、医学的知見も進展したため、「制約が過剰であり規定は必要で合理的なものとはいえない」とした。
ただし、手術を必要とするもう一つの要件である「外観要件」は、一、二審で判断されていないため高裁へ差し戻しとなった。そのため、性別変更手術が今の時点で不要になったわけではない。「外観要件」にも同様の判断を求める。
最高裁での違憲判断を受け、国会では速やかな法改正が求められる。単に「生殖不能要件」の撤廃だけでなく、司法判断を待たずに「外観要件」の撤廃にも踏み込んでいただきたい。さらに、家族の多様化が進んでおり、婚姻や未成年の子ども無しなどの要件も不要ではないか。「特例法」自体の廃止も検討すべきだ。
また、法改正では与党の一部から大きな反発が起きるだろう。迅速な法改正のためにも、岸田首相には与党内をまとめる必要がある。さらに、社会の一部からトランスジェンダー当事者への風当たりが厳しくなるだろう。政府は、速やかな法改正と同時に、当事者への差別的な言動などに毅然(きぜん)とした態度を取ってもらいたい。
今回の判断では、社会の理解の深まりも重視された。トランスジェンダーに限らず、同性婚や選択的夫婦別姓制度などについての理解も、日本社会で深化しており、人権意識が大きく向上している。司法や立法府は、日本社会の変化に早く追いついてほしい。