(社会新報2022年8月17日号1面より)
1992年8月25日、夏の太陽が照りつける韓国のソウル郊外にあるオリンピック総合スタジアムは一種異様な熱気に包まれていた。
旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)による合同結婚式。会場となるスタジアムには3万252組の花嫁・花婿が集まっていた。スタジアムを埋めつくす真っ白なウエディングドレスとベール。傍らには黒のタキシード姿の花婿たち。参加者たちは世界各地からやって来ていた。参加費30万円と感謝金140万円を納めてこの日を迎えたのだ。
式が始まった。レンズ越しに彼ら、彼女らの表情を捉えた。どの顔も陶酔しきった表情を浮かべ、教祖を拝むその目は恍惚(こうこつ)としている。
一方、娘や息子をカルト集団に奪われた家族たちが会場の片隅に入り込み、「アイゴー!」と悲痛な叫びを上げていた。
1954年に韓国で文鮮明によって創設された統一教会が日本に進出したのは59年。以来、その巧みな勧誘で信者を増やしていた。人生に悩みや不安を抱える若者たちは何かとターゲットにされやすい。その後、統一教会の正体は、そのマインドコントロールの手口や、信者に高額な壷や印鑑などを売りつける霊感商法被害などで、徐々に明るみに出ることとなるが、一気に世間の注目を集めたのが、この合同結婚式だった。旧統一教会の教祖・文鮮明と岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三という親子三代にわたる政治家との密接なつながりは、当時から周知の事実ではあった。
だが、あれから30年後の今回の安倍晋三元首相の暗殺事件を、誰が予想しただろうか。
あの日、信者たちはひたすら「マンセー(万歳)!」と叫んでいた。そして私たちは、ただその不気味さだけを話題にしていたのだ。
(フォトジャーナリスト・橋本昇)
↑安倍晋三元首相(2020年)。
↑晋三氏の父・安倍晋太郎氏(1986年)。
↑晋三氏の祖父・岸信介氏。国際勝共連合セミナーで(1985年)。
↑合同結婚式で「ムン・ソンミョン(文鮮明)万歳!マンセー」の大きな声と「アイゴー」の悲痛な声が交錯した(1992年8月25日、ソウル市)。
撮影は全て橋本昇さん。
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