社会新報

日米地位協定の改定を急いで~米軍関係者は検疫ノーチェック~

(社会新報2022年2月2日号1面より)

 

いくら軍備を増強してもウイルスには勝てないことが一段と明確になった。新型コロナウイルス禍が丸2年を経過し、在沖縄米軍基地から第6波の変異株感染が全国に急拡大している。水際作戦に大きな障害となっている日米地位協定の抜本的な改定が急務だ。

(金子豊貴男・相模原市議)

 

 

 コロナ禍丸2年の在日米軍のコロナ対応について、現時点で明らかになった課題をまとめてみる。

 2021年6月、神奈川県の在日米陸軍基地・相模総合補給廠に日米共同訓練「オリエント・シールド演習」のために来日した米軍部隊100人余りが、コロナ感染対策として2週間隔離された。外出が目撃されたのは初日だけで、以降は倉庫に宿泊し、屋外に張ったシェルターテントで食事配膳などをしていた。在沖米軍基地内のコロナ警戒レベルを示す健康保護態勢(HPCON)のレベルは、20年9月以来、「B(ブラボー)」になっていた。航空用語でレベルにはA(アルファ)、B(ブラボー)、C(チャーリー)、D(デルタ)、E(エコー)の5段階がある。

再度のレベルアップ

 21年9月、米軍はHPCONレベルをAに緩和し、ノーチェックで日本国内に米軍人等が入国するようになった。その結果、同年12月から在沖縄米軍基地でのコロナ感染が急増し、岩国や三沢、横田の各基地へ飛び火し、米軍への批判が高まる中で再びBにレベルアップした。これでは米軍内部に徹底しているとは考えられない。形だけの措置だ。

 米兵の日本国内への入国実態を見てみよう。

 NPO「リムピース・追跡在日米軍」の調べでは、入国ルートには、①沖縄・嘉手納基地②成田空港③横田空軍基地④艦船  の4ルートがあるとされる。さらに日本国内の主要米軍基地の間を米軍機が定期便で毎日のように飛び交う。三沢、横田、厚木、岩国、福岡空港(週4便)、長崎空港(週1便)、嘉手納基地を結び、米軍基地間の人員輸送が行なわれている。

 今回の感染拡大は、沖縄では嘉手納基地経由で普天間海兵隊基地の感染者が急増したことが始まりだ。1月20日時点の在沖縄米軍の陽性者は7953人となった。さらに基地内の日本人従業員や基地外に住む米軍人軍属から、あるいは基地から外出した軍人から県民に感染が拡大していったとみられる。さらにキャンプ・ハンセンや同シャワブなどから山口県の岩国基地に広がり、山口、広島両県民に広がったと思われる。

佐世保基地の場合は

 佐世保基地の米海軍の感染対策は、①出港後、新たな港への寄港は2週間を経過してからとする②出港後、同じ港への寄港、再寄港は可能③艦船で陽性あるいは疑わしい患者が発生した場合は、港の沖合に停泊して乗組員全員を隔離  というものであった。

 直近では、韓国・木浦を出港し、昨年12月21日に佐世保に入港したサカジャウイア(海兵隊専用の貨物弾薬補給艦)は1月7日に出港するまで約3週間、佐世保に停泊していた。

 こうした措置で、佐世保基地の感染防止対策はそれなりに効果を発揮していたが、今回のオミクロン株では、その水際対策もすり抜けて基地従業員の感染も連日報告されている。20日には米軍人93人の感染が報道された。

 民間機での成田空港経由での入国者は、横須賀や横田、厚木、キャンプ座間に入るが、各基地から定期便で毎日何便かのリムジンバスが成田の米軍専用ラウンジとの間を往復している。日本の検疫を通ることなく各基地に入っている。

岩国の状況をリポート

 岩国基地の状況を、田村順玄・元岩国市議が次のようにリポートしている。

 「海兵隊基地である岩国基地は、アジア各地の米軍基地を結んで移動訓練も多く、週何便もチャーター便が出入りしている。年末になって日本へ来る米兵が入国の際PCR検査もなされていなかったことが判明した。岩国基地には約1万人の米軍人と家族が住んでいるが、その全ては全国と同様に岩国市内での居住状態は公表されていない。大部分は岩国基地内に住んでいるが、愛宕ヒルズと呼ぶ出城の新基地や、民間の借家に住むかなりの戸数が存在する。岩国市の市街地人口は10万人そこそこだが、総数はその1割くらいではなかろうか。愛宕ヒルズには262戸の米軍住宅があり、子どもたちは軍の大型スクールバス3~4台で基地と往復している」

 日本政府は在日米軍のコロナ感染にきちんと向き合い、事実関係を明らかにし、日米地位協定の見直しに進むべきだ。全国の自治体でも情報提供を求める声が高まり、基地のある県の知事でつくる渉外知事会も、日米地位協定の見直しを求めている。政府はこの声を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 

↑キャンプ座間から成田空港行きのリムジンバス。空港の米軍専用ラウンジに直行する。毎日数回の定期便であるリムジンバスは各基地にノーチェックで出入りする。

 

↑佐世保港の中央部に停泊中の貨物弾薬補給艦サカジャウィア(1月、篠原正人さん撮影)。

 

日米地位協定

在日米軍の地位や基地の管理などに関する取り決めのこと。日本における米軍の治外法権がかなりの範囲で認められている。米軍兵士や軍で働く人が起こした事件や事故については米国側に裁判権があるなど、日本の法律が及ばないことが多い。米軍の兵士・家族・軍属は、出入国管理と外国人の登録・管理の外に置かれ、米国の公の船舶・飛行機は、自由に日本の港・飛行場に出入りすることができるため、ウイルス検疫がノーチェックだ。

 

 

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