社会新報

参院選候補たちの「むき出しの偏見と差別」~ ノンフィクション作家の安田浩一さんが寄稿

排外主義を訴えるデモに抗議する人たち。(2023年10月8日、埼玉県川口市)

やすだ・こういち 1964年生まれ。『週刊宝石』『サンデー毎日』などの記者を経て2001年よりフリーに。『ネットと愛国』で12年に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。

 

(8月21日号)

 

 参院選期間中、多くの候補者が「外国人排除」をあおった。排外主義の言説が、日常生活に忍び込む。何が起きたのか、ノンフィクション作家の安田浩一さんに寄稿してもらった。

  ◇ ◇

 「こわかった」ーー。川口市(埼玉県)に住む29歳のクルド人女性は参院選期間中をそう振り返った。「ほとんど家の中にいた。外に出たくなかったから」。
 子どもたちにも駅前など人の多い場所には行かないように伝えた。むき出しの偏見と差別から家族を守りたかったのだ。
 選挙期間中、外国人住民が多く住む川口市をはじめとする埼玉県南部は、ヘイトの渦に飲み込まれた。蕨駅(蕨市)、西川口駅など乗降客の多い駅の周辺では連日、「外国人排除」を多くの候補者があおった。

クルド人へのヘイト

 地域のクルド人支援に取り組む市民団体「クルド人と共に」の温井立央代表は、深いため息を漏らしながらこう述べた。
 「最悪の選挙戦だった。選挙期間中、駅前には近づけなかったと話すクルド人住民は決して少なくありません。子どもを連れたクルド人のお母さんは、タイミング悪く候補者のヘイトスピーチに遭遇し、思わずわが子の耳を両手でふさいだそうです。そんな異常な日々が続いたんです」
 もともと、この地域に住む外国人、とりわけクルド人たちは醜悪なヘイトスピーチをぶつけられている。スマホでの隠し撮り、悪意あるSNSへの投稿被害は日常茶飯事だ。「出ていけ」といった言葉がネットにあふれる。壁に落書きされたり、「自警団」と称する者たちに、町中でどう喝されることもある。
 そうしたなかでの選挙戦。候補者たちは、選挙期間中はヘイトスピーチが許されているかのように、“差別する自由”を謳歌(おうか)した。
 たとえば、「クルド人から日本を守れ」と訴える候補者がいた。「元祖・日本保守党」(作家の百田尚樹氏が代表を務める同名の党とは別)から埼玉選挙区で立候補した元海上自衛官・石濱哲信氏(74)である。
 彼はクルド人のみならず在日コリアンなどにも攻撃の矛先を向け、「野蛮」「日本を支配している」などとヘイトスピーチを連発。私がヘイト発言の真意を尋ねても「朝鮮人に答える必要はない」と取材を拒んだ。
 支持者の一人(30代男性)に話を聞いた。
 なぜ、このようなヘイトスピーチに賛同するのか。
 「ヘイトではない。(石濱氏は)真実を述べているだけだ」
 妄想を根拠に差別をあおっているだけだ。
 「あなたはSNSを見ないのか? 真実は知れ渡っている。クルド人など外国人による犯罪が急増していることをどう思うのか」
 この男性だけではない。支持者の誰に聞いても一事が万事、この調子なのである。

埼玉の外国人犯罪減る

 言うまでもないが、日本全体を見渡しても、外国人住民の増加が治安悪化を招いているという根拠は見当たらない。埼玉県に至っては、この20年間で外国人住民は1万4679人(04年)から4万8161人(24年)と3倍以上に増えているが、同時期の刑法犯認知件数は1万6314件から4529件と激減しているのだ。
 埼玉選挙区においては、やはり「移民反対」を綱領に掲げる日本改革党の津村大作氏が、政見放送で次のように訴えた。
 「クルド人は日本人の優しさに甘えたクズだ。生きる権利などない」
 同じ地域に住む人の「生きる権利」を否定する者が「地域を守る」と訴えているのだ。差別と排斥をあおる暴力そのものではないか。
 これら候補者は知名度不足もあって落選したが、問題は当落ではなかろう。選挙を利用して外国人住民に不安と恐怖を与え、市民に向けて差別を扇動したことが問題なのだ。その責任は問い続けなければならないし、選挙期間中であろうが、こうしたヘイトスピーチを野放しにしないためにも、何らかの規制は必要だと私は思っている。
 だが、さらに問題なのは、堂々とヘイトスピーチを披露し、「外国人の脅威」を訴えた政党、候補者が、今回の参院選で数多く現れたことである。
 「日本人ファースト」を掲げた参政党。スローガンだけでも醜悪極まりないが、代表の神谷宗幣氏は街頭演説で「(外国人は)集団万引きする」などとした上で「金がないなら帰れ」と発言。神奈川選挙区から立候補し、初当選した同党の初鹿野裕樹氏も「外国人ばかりが生活保護を受給している」という旨の発言をしたほか、ヘイトスピーチに反対する市民を「非国民」だと攻撃した。
 日本保守党の百田尚樹代表(初当選)も、街頭演説で外国人は「日本の文化は守らない。ルールは無視。日本人を暴行する。物を盗む」とヘイトスピーチを繰り返した。
 その他、多くの政党、候補者が、人気取りのためだろう、憶測や妄想も交えて「外国人増加による日本の危機」を訴えた。

国を挙げて差別扇動

 そもそも政府は今年5月、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」と銘打った計画を発表している。日本に滞在している「不法滞在者」が「国民の安全・安心に大きな不安を与えている」という認識に基づいたものだ。国を挙げての差別扇動に、日本社会が乗せられてしまった感がある。
 「こわかった」と悲痛な表情を浮かべたクルド人女性を思い出しながら、私は今、あらためて思うのだ。恐怖や危機を感じているのは、ヘイトの刃を突きつけられた外国人の側ではないのか。その痛みに向き合うことこそ、政治の役割でもあるはずなのだ。