社会新報

「日本国憲法と自由」をテーマに福島党首と田中優子さんが対談 -2022年は「護憲」の闘いが正念場 自民党改憲案は基本的人権を骨抜き 内閣の独裁を招く「緊急事態条項」-

(社会新報2022年1月1日号1・2面より)

 

法政大学前総長

田中 優子さん

 

 

社会民主党党首

福島みずほさん

 

新年を迎えるにあたって、社民党の福島みずほ党首と法政大学の前総長で江戸文化研究者の田中優子さんが「日本国憲法と自由」をテーマにオンラインで対談した。先の総選挙では衆院の改憲勢力が改憲発議に必要な3分の2以上の議席を超えた。護憲平和の社民党にとって2022年の参院選はまさに正念場の戦いだ。2人が熱く語り合った。

 

 

福島みずほ党首 法政大学の総長の7年間、ご苦労さまでした。同時に研究者としての業績も上げられ、すごいと思います。田中さんの素晴らしいところは、精神の自由さですよね。栃木の造り酒屋のお嬢さんだった祖母が女性の解放を主張した雑誌『青鞜』に感化され、上京したとか。そういうご家族もおられる。

田中優子さん そうですね。私自身、自由をとても大事にしてきました。法政自体が自由を大事にしてきた大学なのですが、総長になって、「自由を生き抜く実践知」という大学憲章を定めました。自由といっても新自由主義もあれば、自由民主党なんていう政党もありますが(笑)、そうした、もうけたり、消費したりするのとは異なる基本的人権としての自由をどう行使するか、どう生き抜くことができるかを考えてきました。

「学問の自由」を侵害

福島 田中さんの発信力もすごいですしね。入学式、卒業式のメッセージも感動しますが、菅義偉前首相が日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した例の問題では、「学問の自由を守るため」として、総長声明を発表されました。

田中 学問というのは、論争や相互批判の積み重ねなのです。それぞれの学術の分野で、議論を続ける。ところが、今回のように委員の任命を拒否して論争をさせないようにするということは、学問の自由を奪うことにほかなりません。権力者が、学問の自由というものを理解していない。はき違えているのです。

福島 おっしゃるとおりで、形式的な任命権しかないと認めているはずの菅前首相が、「この学者は良い、あの学者はダメ」なんて決めるのは、まさに学問の自由の侵害ですよ。残念ながら、菅前首相は法政出身ですが。

田中 菅さんが首相になられて喜んだ卒業生も多かったのですが、私は「何をやるか分からない」と危ぶんでいました。しかし、まさかあんなことをやるとは。一番恥ずかしいことが起きてしまった。知性がないですよね。これでは法政の卒業生が、みんな知性がないと思われかねません。

福島 そんなことはないでしょうけど(笑)。

田中 それで、卒業生のためにも在校生のためにもこれでは困る、大学を守らねばと考え、総長声明を出しました。引き続き、政府に対して任命拒否を撤回させるよう求めるべきです。

婚姻の規定が別物に

福島 自由の問題で言えば、自民党は2012年に「日本国憲法改正草案」を発表し、岸田文雄首相も改憲に前向きな姿勢ですね。

田中 もう、現行憲法と自民党の改憲案とでは、世界観、考え方が根本的に違う。それは、前文だけでもよく分かります。改憲案は「天皇を戴く国家」だと明記し、国民は家族を基盤にして成り立っているとしている。家族にしても、現行憲法24条の「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」との規定が、改憲案では「のみ」が外されているように、家族の意思も反映されるような余地を残しています。今も選択的夫婦別姓が法制化されませんが、柔軟な家族、多様な家族ではあり得ないでしょう。

福島 そうなんです。根本的な発想が、現行憲法と別物ですよ。改憲案の24条には「家族は、互いに助け合わなければならない」と書かれていて、これでは社会保障が切り捨てられ、個人の尊厳、両性の本質的平等とは、形骸化していくのではないでしょうか。しかも現行憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される」が、改憲案では「人として尊重される」になっています。個人の尊厳があるから、基本的人権も両性の本質的平等もあるのに。

田中 現行憲法は、基本的人権は「個人」にあるという思想を明確にしていますからね。改憲案のようにその「個」を抜き取って、「人」というとても抽象的で漠然とした表現にすれば、語句として残ってはいても、基本的人権は骨抜きにされるでしょう。

福島 それに、憲法とは国家権力を縛るためにあるのに、改憲案は個人を縛るものになっています。個人と国家の関係が逆転しているのですね。しかも改憲案の12条では「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とされていますから、基本的人権は紙クズみたいになるんじゃないでしょうか。

「個」制限する「公益」

田中 この「公益」とは、利益ですよ。国の経済的な富みたいな。しかし自民党は経済的富裕層に厚い手当てをして、富める者をさらに富めさせれば貧しい者にも富がこぼれ落ちるという「トリクルダウン」をまだ信じているわけだから、これが自由の前に来たらどうなるのか。家族の考え方もそうですが、この改憲案は今の世界の現実にまったく沿っていません。

福島 この「公益」が、国益になってしまいかねない。そうなったら原発推進や沖縄の辺野古新基地建設も国益とされ、反対したら「公益」、国益に反すると言われてしまいます。

田中 改憲というと、どうしても9条の問題になりますが、それでは足りません。論じる前にこの改憲案をまずきちんと読んで、どう憲法が変えられているのかという点を機会あるごとに他の人たちに話し、その全体像を伝えていくことが大事ですね。「これでいいんですか」って。

福島 改憲案の怖さが、まだ理解されていませんから。自民党は18年に「緊急事態条項」や「自衛隊の明記」、「合区解消」、「教育の充実」の4項目をまとめ、改憲の目玉にしました。

緊急事態条項は、ものすごく危険です。緊急事態が生じた場合に「法律と同等の効果を有する政令を内閣が制定できる」というのですが、国会が唯一の立法機関ではなくなる。何もかも内閣でできるから、基本的人権であれ自由であれ、いくらでも制限できる。ナチスの独裁をもたらした、あのドイツの「全権委任法」とまったく同じです。

「全権委任法」と酷似

田中 もうこれは、「国会無用論」ですよ。自民党はコロナの感染拡大を緊急事態条項に結び付けようとしていますが、内閣が全てを決め、地方に従わせるという発想でしょう。しかしコロナについては、地方自治体が現場の実情に合わせ、自分たちの足元を見ながら対応するのが基本ですから。

福島 以前は自然災害を緊急事態条項の口実にしていましたが、今度はコロナ禍。しかし自民党政権のコロナ対策が無為無策だからこんなひどいことになったのに、それを棚上げして緊急事態条項とはデタラメすぎます。しかも「自衛隊の明記」といっても、何をしたら自衛隊の行動が違憲になるのかまったく分からない。これでは集団的自衛権の行使も戦争をやることも、何でも合憲になります。

田中 日本学術会議の問題にしても、満州事変から日中戦争まで行った1930年代に、滝川事件や天皇機関説事件などで多くの学者が大学を追われているのですが、その時代と共通していると思います。ある意味では、もう政府は戦争を準備しているのかと。

福島 自公政権が昨年6月に可決した重要土地規制法や、宮古島のミサイル搬入に象徴される南西諸島の軍事化を見ても、いよいよ日本が戦争に向かってかじを切ったのかという思いがします。「戦争が廊下の奥に立つてゐた」という戦前の俳句が、最近リアルに感じられてならないのですが。そもそも合区を解消したいのなら、公職選挙法を改正すればいい。教育を充実したければ、すぐに子どもの支援をやればいいじゃないですか。

田中 教育にしても一時、「教育の無償化」を改憲の口実にしましたが、やめました。結局、ウソでしたね。

発議手続の要件下げ

福島 昨年6月に、改憲の手続きを定める改正国民投票法が成立しました。附則で有料CMの規制を検討するとありますが、自民党や公明党はこのままで改憲発議ができると主張しています。いずれにせよ今年は参議院議員選挙がありますが、国民投票を単独でやると80数億円かかるので、参議院選挙と合わせて改憲の国民投票をやろうとする動きが予想されます。

田中 しかも改憲案は100条で、発議手続を「両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成」とし、現行憲法96条の「3分の2以上」を変えましたね。さらに改憲案では、国民投票で「有効投票の過半数の賛成」で改憲は成立するので、投票率が低いほど有利になるなど、すべてにハードルを下げています。結果として、これから絶え間なく改憲ができかねません。

福島 それで私は今、すごい危機感を感じています。

最後に、社民党に対する一言をお願いできますか。

田中 野党の役割とは、現行憲法を実現することにあると思います。今の憲法を実現すると、どんな社会になるのか。一人ひとりの生活がどうなるのかということと同時に、社民党に投票したらどういう社会になるのかを示してほしいですね。

福島 分かりました。今年も頑張ります。

 

↑田中優子さん

 

↑福島党首

 

ふくしま・みずほ

1955年、宮崎県生まれ。社会民主党党首。弁護士で参院議員(4期)。社会主義インターナショナル副議長。内閣府特命担当大臣、学習院女子大学客員教授などを歴任。フランス政府から国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。

 

たなか・ゆうこ

1952年、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部教授、社会学部長等を経て法政大学総長(2021年に退任)。専門は日本近世文学、江戸文化、アジア比較文化。著書に『江戸の想像力 18世紀のメディアと表徴』(ちくま学芸文庫)など多数。

 

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