社会新報

入管は人権侵害をやめろ!~全国10ヵ所で同時アクションに500人

入管法改悪に反対を訴え、デモ行進する市民たち。ウィシュマさんの遺影を持っているのが妹のワヨミさん(9月4日、上野駅周辺)

 

(社会新報9月21日号3面より)

 法務省・出入国在留管理庁(入管)は7日、入管法の改悪案提出を見送った。昨年5月に続き、再び市民と野党の力が改悪を阻んだかたちだ。今後も、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)が名古屋入管の収容中に死亡した事件の真相究明や、野党提案の法制度の抜本的な改善が求められる。
 「入管法改悪反対」と大きく書かれた横断幕を持った若者たち、在日外国人とその支援者たちが4日、東京・上野駅周辺をデモ行進した。約200人(主催者発表)が参加したこのデモは、同日全国10ヵ所で行なわれた同時行動の一環で、全国で500人が参加したという。

難民鎖国ぶり露骨に

 難民認定を複数回申請した人を強制送還できるようにする、帰国を拒む人に刑事罰を科すなどを盛り込んだ入管法の改悪案は、昨年2月に国会に提出されたが、国内外の強い批判を招いた。米国やドイツなど他の先進国と比べ数十~数百分の1という異常に低い難民認定率が国連組織からも指摘される日本の難民鎖国ぶりが、さらに悪化する恐れがあることや、また昨年3月、健康状態が悪化していたウィシュマさんにまともな治療を受けさせることないまま死なせてしまった名古屋入管の対応を社民党をはじめとする野党が追及。昨年5月、政府与党は入管法の改悪を断念。事実上の廃案に追い込まれた。
 ところが、法務省・入管庁は、「ウクライナからの避難民の保護」を名目に、再び、昨年と同じ問題がある入管法改悪案を、この秋の臨時国会に提出しようとした。これに抗議するための全国同時行動だった。
 東京でデモを主催したのは、学生や市民による団体BOND(外国人労働者・難民と共に歩む会)。学生らは、難民や家族が日本にいるなどで帰国できない人々にレッテル張りし、入管施設での長期収容や、強制送還を正当化しようとする入管法改悪案の問題点を指摘。「(入管から)退去強制令を受けた外国人の95%以上が自発的に帰国しています。しかし、どうしても国に帰れない事情を抱える人々が、入管の言うところの『送還忌避者』です。帰らないのではなく、帰れないのです」と沿道の人々に訴えた。
 ウィシュマさんの妹のワヨミさん(29)も遺影を持って参加。デモの終わりに「姉の死のような悲しい出来事は二度と起きてはいけません」と訴えた。

不起訴不服申し立て

 ウィシュマウィシュマさんの事件をめぐっては、遺族らは名古屋入管側に「ウィシュマさんが死んでもかまわない」との「未必の故意」があったとして、昨年11月に殺人容疑で告訴。これに対し名古屋地検は「死因が特定できない」として、今年6月、不起訴としていた。
 ところが、その後、ワヨミさんら遺族と弁護士らが地検の捜査記録の一部を閲覧したところ、ウィシュマさんの死因として「脱水と低栄養」などによる「複合的な要因による多臓器不全」が明記されていた。ウィシュマさんは名古屋入管に収容されていた当時、満足に飲食ができない状態に陥り、点滴を行なうことを繰り返し求めていたが、名古屋入管側は、最後まで点滴を受けさせなかった。ウィシュマさんの遺族を支援する弁護団の一人でこの日のデモに参加していた指宿昭一弁護士は、「これだけの証拠があるのに、不起訴にしたのはおかしい」と憤った。ウィシュマさんの遺族らは先月、名古屋検察審査会に不起訴不服申し立てを行なっている。

真の改正へ野党提案

 一方、法務省・入管庁は、この秋に予定していた入管法の改悪案の提出を見送ることを発表。ただし、葉梨康弘法相は9日の定例会見で、「法案の骨格を変えることはない」とも発言しており、今後、また難民認定申請者の送還や送還拒否の刑事罰化を含む法案を出してくる可能性が高い。社民党は、立憲民主党や共産党などとの野党合同提案で、今年5月に難民等保護法案と入管法改正案を参院に提出している。難民認定審査を独立した専門機関に行なわせ、国際基準で難民として保護すべき人々を保護することや、収容施設での収容を、これまでのような入管のさじ加減ではなく、裁判所が判断させること、病気で治療が必要な人を収容しないことなどを盛り込んだものだ。法務省・入管庁も、野党提案に基づく真の改正を目指すべきだろう。