自民と統一教会の改憲案が酷似~憲法学者が教団の一定の影響力を指摘
(社会新報10月26日号1面)
統一教会(世界平和統一家庭連合)の政治部門とされる国際勝共連合(勝共連合)の改憲案と、自民党の憲法改正草案が、「緊急事態条項」や「家族の文言追加」などでうり二つであることが指摘されている。7日、参院議員会館で、日本体育大学教授の清水雅彦さんと名古屋学院大学教授の飯島滋明さんの2人の憲法学者が「自民党と統一教会の改憲論について」をテーマに講演した。主催は、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と改憲問題対策法律家6団体連絡会。
緊急事態条項いらない
弁護士の大江京子さんが司会を務めた。清水雅彦さんは、自民党改憲草案の問題点と統一教会側の主張の重なりについて指摘した。
2017年に公開された勝共連合の関連サイトでは改憲案として「緊急事態条項の新設」を掲げており、自民党改憲草案と一致する。清水さんは、東日本大震災を受けて12年に追加された緊急事態条項は18年になっても基本的に変わっていないが、緊急事態の定義を自然災害に限定していると解説するマスコミ報道に注意が必要だと指摘する。「国民保護法の中の『武力攻撃災害』が適用されることから、決して自然災害に限定されない」と強調。また清水さんは、「新型コロナを理由に同条項を正当化する主張もあるが、世界のどの国も法改正で対応しており、そもそも保健所の数を減らしてきた日本が、その対応不足を憲法のせいにするのは間違い」と断じた。
勝共連合の関連サイトにはまた、「家族保護の文言追加」を掲げている。自民党改憲草案の24条でも、「家族」の文言を新設し「家族は助け合わなくてはならない」としている。この点について清水さんは、「国の私的領域への干渉や、公助を削減する新自由主義的な発想」と批判した。その上で、第1次安倍政権が教育基本法改正で「家庭教育」の規定を行ない、さらに家庭教育支援法制定の動きがあった際に、統一教会は同法の制定を求め、地方自治体で家庭教育支援条例を働きかけて制定させているなど、両者の同調性を指摘した。
統一教会が一定の影響
自民党改憲4項目にある「9条に自衛隊の明記」については、日本政策研究センターの主張との類似性を指摘した。安倍元首相のブレーンといわれる、日本会議理事で同センター代表の伊藤哲夫氏は、ジェンダーバッシングや夫婦別姓への反対運動を繰り広げ、「改憲は加憲から」と主張した人物であると説明。勝共連合の関連サイトでも憲法に「自衛隊の明記」を掲げた。
清水さんは、結論として、自民党改憲案に対する統一協会の影響は、①自民党と統一協会の目指す方向性が全く同じではないが、一致点でお互い利用価値がある②「統一協会に指示されて改憲案を出した」わけではないが、一定の影響はあるーーなどとまとめた。
さらに、本当に警戒しなくてはいけないのは実質改憲だと強調。敵基地攻撃能力の保有や防衛費GDP2%以上への引き上げなど、憲法の形骸化に対して批判の声を強めなければならないと訴えた。
憲審を開く意義はない
清水さんの話に続いて、飯島滋明さんが、「いま、憲法審査会は何を議論すべきか」をテーマに講演した。
飯島さんは、①自民党の改憲案は統一教会の影響を受けている②自民党は選挙で統一教会の支援を受けているーーという2点でその実態があるようなら、「そもそも自民党改憲草案の憲法改正は論外だ」と厳しく批判した。統一教会は、霊感商法や強引な献金活動の中で多くの家庭を崩壊させており、上記2点の実態も「すでに明白だ」と強調し、「いま、憲法審査会を開く意義は全くない」と訴えた。そして、「仮に憲法審査会を開くというのであれば、国会法に従って統一教会と自民党改憲案の関連調査を優先的に行なうべき」と強調。
飯島さんは、「自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の改憲勢力は緊急事態時における国会議員の任期延長について議論を行なっており、その気になれば憲法審査会を通すことはできる」とした上で、「いま問われているのは、統一教会の自民党改憲案への影響が疑われていることだ。そもそも憲法改正云々の前に、国会議員の資格が問われる議員がたくさんいる」と批判した。また、憲法改正国民投票法制定の際、自民党が反対した外国資本の規制について再度提起する必要があると訴えた。
その上で飯島さんは、「政治は、緊急事態条項などの議論よりも、新型コロナなどで生活が困窮している人たちの救済や、豪雨災害被害を受けた農家への支援、インフラ復旧に全力を尽くすべきだ」と強調した。
メモ【改憲4項目】自民党憲法改正推進本部が2018年3月に公表した、憲法改正についての4項目の条文イメージ(たたき台素案)のこと。①憲法第9条に自衛隊の明記②緊急事態条項の創設③参議院の合区解消④教育無償化の明記ーーの4項目。改憲派の最大目的は、憲法への自衛隊明記にあり、集団的自衛権行使を認めた安保法制をはじめ、日米軍事同盟の強化、GDP比2%以上の防衛予算増、敵基地攻撃能力の保有といった「実質改憲」の延長線上にある。