声明・談話

【談話】IAEA報告書は汚染水放流の通行書ではない。即時中止を求める

2023年7月6日

社会民主党幹事長 服部 良一

福島県連合代表  狩野 光昭

 

  1.  7月4日国際原子力機関IAEAのグロッシ事務局長は福島第一原発の汚染水海洋放出に関する報告書を岸田首相に手交し、報告書では日本政府の方針を推奨・支持するものではないと言いつつ、「放出計画は、国際的な安全基準に合致し」、人や環境への影響について「無視できる」という見解を公表した。政府はこれを受けて8月にも海洋放出に踏み切ろうとしているが、全く容認できない。一貫して反対の立場を堅持し訴えている地元福島県の漁協や全国漁業協同組合連合会、また韓国や中国・南太平洋諸国など世界の懸念や不安の声と連帯して、社民党は海洋放出の中止を求めていくものである。
  2.  政府及び東電は2015年に地元漁協と文書確認した「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束を厳守すべきである。「3・11」以降地元では漁協会員が激減し、その上に汚染水放流となれば風評被害が拡大し、漁業を放棄せざるをえない状況にならないとも限らない。漁業そのものの存立の危機に直面する懸念が広がっている。

     今年の3月の福島民報世論調査では放出に反対41%、賛成38.9%と別れたが、風評被害に関しては9割以上が起きると回答していることを政府は重く受け止める必要がある。政府や東電へのこれまでの根強い不信感が、風評被害の懸念の背景にあることを思い知るべきだ。

  3.  そもそも薄めて海に放出することが認められるのであれば、どんな猛毒も海に放流することが出来、モラルハザードを起こし海はゴミ捨て場になってしまう。世界の共通の資源である海の環境を守るのは人類総体の責務であり、とりわけ近隣諸国の反対を押し切って日本だけで強引に判断すべき問題ではない。「人口海洋構造物から故意に海洋処分すること(投棄)」をロンドン条約/議定書は禁止しており、重大な国際法違反である。海を核のゴミ捨て場にしてはならない。

     韓国では国民の85%が反対しており国会議員が無期限ハンストに入るなどますます反対の声は高まっている。中国政府も7月4日声明を出し、「IAEAのレビューは日本が海洋放出するグリーンパスにはならない」とし、国内外の懸念を直視して「世界の海洋環境、全人類の健康および子々孫々に責任ある態度で」「厳格な国際監督を受け入れるよう」要望している。政府は世界の声を真摯に聞くべきである。日本の国際社会における良識と品格が問われている。

  4.  今、放出を急ぐ必要は全くない。国内外の専門家から汚染水の処分について様々な代案が出されている。コンクリート固化や巨大タンク案など海洋放出以外の様々な現実的な案がある。加えて、東電の敷地にはタンクを増設する敷地もある。例えば欠陥タンクであったフランジ型タンクを設置していた場所や、今後の廃炉作業で発生が見込まれる大量の廃棄物置き場として確保している広大な敷地もある。敷地の利活用について東電は早急に再検討すべきだ。

     付け加えるならば、2051年に更地にするという廃炉計画の実効性にも大きな疑問符がついている。多くの専門家が見直しの必要性を指摘し、長期地下保管やもっと長いスパンでの計画の見直し案も出されている。タンク増設のスペースがないなどと一方的に決めつけるのではなく、今後の汚染水の減衰の見通しや、トリチウムの放射線量の12.32年の半減期、廃炉に伴う廃棄物の保管や処理方法、デブリ取り出しの技術開発など総合的に今後の工程を検討すれば、今慌てて汚染水を放出する必要性はなく、もっと時間をかけて代案を真剣に検討すべきである。

  5.  福島原発の水素爆発、核爆発は未曾有の炉心溶融をもたらし、あらゆる核種、コンクリートなどが混然一体となり地下水や冷却水と混じり大量の汚染水となった。一定程度管理された状態での既設原発からの放射能の排出とは根本的に違うと考えなければならない。事実汚染水には60以上の核種が混入し、かつトリチウム以外にもALPSで除去できない核種も存在している。そもそもALPSの性能にも大きな疑問があり、現在改良機種を稼働しようとしているが完成していない。また東電は多くの規定値を上回る核種が除去できていないことを長期間隠蔽していたことも、著しく信頼を毀損する結果となった。汚染水の実態の解明についてとても国内外の納得を得ているとは言い難い。
  6.  現在のトリチウム汚染水は125万m3、780兆ベクレルに達する。いかに薄めようとその総量が変わるわけではない。今後30年以上に渡り放出され放射能が生態系などの環境に負荷を与え続けることは明らかだ。しかも生物連鎖、食物連鎖などの及ぼす影響についてはとても実態が解明されているとは言い難く、体内に取り込まれた場合の影響も大きい。科学的な、透明性のある納得できる見解が示されない限り、世界の不安を払拭することにはならないであろう。

 以上の理由から、政府はIAEA報告書でお墨付きをもらったとばかりに汚染水海洋放出に踏み切ることを即時に中止すべきである。IAEAは原子力の安全確保とあくまで原子力の推進を目的とした機関であり、IAEAの報告書は金科玉条でもなんでもない。政府と東電は国内外の反対世論を真摯に受け止め、代案や廃炉工程を含めた再検討に入る事を強く要求するのものである。                           

                                 以上