(社会新報4月25日号1面より)
経済安全保障上の重要情報にアクセスできる人を国が限定するセキュリティー・クリアランス(適正評価)制度を導入する経済安保新法案(メモ)が、4月5日の衆院内閣委員会で修正のうえ可決され、9日の本会議でも賛成多数で可決された。委員会での審議はわずか約25時間だった。
修正案には、立憲民主・維新・国民民主などが求めた「運用状況を国会に毎年報告する」旨が含まれた。
社民党は、所属する「立憲民主・無所属」会派が法案に賛成したため、本会議採決時に新垣邦男副党首(衆院議員)が退席した。
拡大解釈への懸念
政府・与党は、日米などと中国の対立が続く中でサイバーや人工知能(AI)など先端技術開発が進んでいることから、日米欧が共同して重要な経済情報を保全する必要があると主張する。G7など先進諸国の中で日本だけにそうした保全制度がなく、国際協力に支障が出ているという。
また、電気・通信・鉄道など重要インフラや重要物資供給に関する情報保全の必要性なども挙げる。
他方で反対・慎重派は、指定される情報の内容や範囲があいまいなことや、セキュリティー・クリアランスに関する拡大解釈・恣意的適用、さらには調査対象者への不利益などを指摘する。また、日米を中心とする軍産一体化を懸念する声も根強くある。
個人情報が丸裸に
衆院可決後、審議は参院に移った。
福島みずほ参院議員(社民党党首)は、4月9日の参院法務委員会で同法案に関する質問を行なった。
福島議員は、政府側の「セキュリティー・クリアランスにおいては本人の同意が前提」との説明に対し、「本人にしか同意がないのに、何で他の人(家族・親族や同居人など)の国籍などさまざまなことを当人の同意なく調べることができるのか。プライバシーの侵害にもなりかねない」と疑義を呈した。
また、大川原化工機事件を例に挙げ、国によって「秘密」に指定された情報を含む裁判に際し、「秘密保護法の時の議論もそうだが、『秘密とは何か』について(こちらから)聞けない。(被告とされた人の)無罪立証をどうやってするのか。結局、裁判所は(秘密の内容を公開することなく推認による)外形立証で終わるのでは」と問題点を指摘した。
これに対し、法務省刑事局長は「刑事裁判では検察官に立証責任がある」と建前論で答弁した。
対する福島議員は「検察官も弁護人も裁判官も『何が秘密か』が分からないのに、どうやって捜査や裁判をやるのか。無罪の立証は実に難しくなる」と、現実を踏まえて反論した。
日米軍産一体化へ
この質疑の中で福島議員も述べているが、セキュリティー・クリアランス制度の導入方針は、一昨年12月に岸田政権の下で閣議決定された安保関連3文書の中ですでに述べられている。
この3文書は、2015年に制定された「集団的自衛権行使の一部容認」を含む安保関連法に基づき、日米同盟の一層の緊密化を確認・推進するものだ。さらに、この方針に沿って敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有し、防衛費の大幅増を目指すとした。
こうした大きな流れの中に、経済安保推進法の制定(一昨年5月)や防衛装備移転3原則改定の閣議決定等(昨年12月)があり、さらにG7など日米欧を中心とする軍産共同行動の推進がある。この流れの中で、今回の法制定の動きも捉える必要がある。
岸田首相が4月10日前後の日米首脳会談や米議会演説などで、安全保障面での日米のさらなる緊密化・一体化にまで踏み込んだことも、この流れの中で捉える必要がある。
社民党はこうした日米軍産一体化の流れに徹底して反対するとともに、経済安保新法案の廃案に向けて全力を尽くす決意だ。
メモ【経済安保新法案】2013年12月に制定された秘密保護法では、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野の情報保全が目的とされ、公務員を中心に身辺の「適正評価」ができるとされた。違反者への罰則も設けられた。
今回の法案は、適用範囲を経済安全保障まで広げ、民間企業の従業員とその身辺もセキュリティー・クリアランスの対象にしている。
対象者の調査項目には、秘密保護法と同様に、本人の飲酒歴・精神疾患歴や金銭借入歴だけでなく、家族・親族や同居人らの個人情報まで含まれる。