社会新報

ウクライナ危機で軍拡へ ~独の安保政策転換に懸念~

(社会新報2022年5月25日号3面より)

 

 ドイツでは1950年以来、核保有国である米ロの核兵器軍拡競争に反対する平和デモ行進や集会が、キリスト教の祭日である復活祭(4月14日から18日まで)に行なわれてきた。その主張は「平和的手段で核兵器ゼロの世界を築く」だ。今年も国内120ヵ所で行なわれたが、この訴えに変化はなかった。

核兵器使用の危機

 例えば、米核弾頭20基が貯蔵され、来年からはより先鋭化され破壊力のある兵器が配備される予定の空軍基地ビュッヘル(ドイツ西部)では、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部前代表スザンナ・グラーベンホルスト氏が演説した。「90年代に比べ、今日、平和的解決の可能性ははるかに低いが、可能性はまだある。米ロ両国は共に核兵器の先制攻撃を放棄すべきだ」と述べた。さらに、「欧州には現在、自滅的軍拡競争の危険性があり、平和的解決から遠のいてはならない」として、ドイツ政府が大幅な国防費引き上げを目指していることを批判した。

 しかし、核兵器使用の第3次世界大戦勃発の危険性をはらむ時代となってしまった現在、これらの主張は現実に即していないのではないか。主権国家ウクライナの壊滅を目指すロシア軍によるウクライナ侵攻が開始される2日前の2月22日、プーチン大統領はテレビ演説で「ロシアを妨害し、ロシアとロシア人に脅威となるものには直ちに応酬し前代未聞の措置をとる」と述べた。これに対し、ドイツ副首相ハーベック氏(緑の党)は、「信じたくはないがこの脅迫は核兵器使用を示唆している」と発言した。プーチン氏にとって旧ソビエト連邦崩壊以後の時代は「地政学的破局」を意味し、この破局をあらゆる手段で食い止めようとしているように見える。

 ところで、プーチン式戦争について、私たちはチェチェン紛争(1994年から96 年、99年から2009年の2回)や2015年以来ロシアが参戦しているシリア内戦ですでに見てきた。無差別攻撃で民間人を恐怖に陥れ、病院や学校などを含むインフラ網を爆撃し、壊滅的打撃を与える戦法だ。プーチン氏は当初、ウクライナを2、3日で制覇し、速戦即決する「電撃戦」を予定していたが、失敗に終わった。ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)諸国からの武器提供を受けて奮戦し、ウクライナ軍とロシア軍の戦闘はこう着状態だ。このため、ウクライナ戦争が近い将来に終結する見通しはない。

武器提供へ大転換

 この状況を鑑みて、ショルツ首相は2月27日、「紛争地域への武器提供禁止」という従来の安全保障政策を180度転換し、連邦軍強化のため1000億ユーロ(約13兆円)の資金確保を明言。また、ウクライナへの対空自走砲「ゲパルト」の供与を拒み続けていたが、連立政権相手である緑の党や自由民主党(FDP)をはじめとする国内外の強い批判を受け、4月26日に最終的には提供を了承し、28日に連邦議会で承認された。

 紛争をめぐるドイツ国内の意見は多様だが、「プーチン氏による主権国ウクライナ侵攻は民主主義と欧州の安全保障を脅かすもので、ロシアに勝利をもたらしてはならない。この侵略戦争を終結させなければならない」というのが一般の見方だ。このため、「武器なしの平和実現」は実現不可能なものと化しているようだ。

(社会新報ドイツ通信員=リッヒャルト・ペステマー)

 

↑ 核兵器の軍拡競争に反対しデモ行進する人々(4月、ドイツ・ビュッヘル村)

 

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