(社会新報2021年5月26日号3面《主張》より)
政府・与党は5月18日、衆院法務委員会で審議中だった出入国管理法「改正」案を取り下げ、廃案とする方針を固めた。
同法案は、さまざまな事情があって母国に帰ることができない外国籍の人々が強制送還を拒んだ場合に、刑事罰を与えることを可能にするもので、日本も加入している難民条約に反して外国人を一方的に強制送還することができる例外規定を設ける非人道的な内容だった。国会前での連日の座り込み、各地での反対集会、SNSなどで声を上げ続けた人々の力が、この法案を廃案に追い込んだ。
反対の声が大きくなった背景には、一人のスリランカ人女性の死がある。今年3月6日、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)は名古屋入管で亡くなった。2017年6月に来日した彼女は、日本語学校で学んでいたが、経済的な理由で通えなくなり退学。同居していたスリランカ人男性からのDV被害を訴えるために静岡県内の警察署を訪れたが保護してもらえず、留学ビザが切れているという理由で20年8月に名古屋入管に収容された。その後、体調が悪化したにもかかわらず、適切な医療を受けられないまま亡くなった。法務省出入国在留管理庁が作成した中間報告では「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と記されているが、今年2月、ウィシュマさんを診察した外部病院の医師の診察記録には「(薬を)内服できないのであれば点滴、入院」と指示が書かれていたことも明らかになり、中間報告の信ぴょう性が疑われている。医療を受けさせず放置していたのであれば、これはもう、入管による「殺人」と言っても過言ではない。
野党は真相究明のために収容中のビデオの開示を求めているが、入管は頑なに拒否している。遺族のために、そして入管法とその運用を見直すためにも、開示が不可欠だ。0・4%というほぼゼロの難民認定率を改善し、入管行政を国際水準に引き上げるため、社民党など野党は、2月に難民保護法案と入管法改正案を議員立法で提出している。
今回、つくづく政権交代の必要性を感じた。母国に帰れば命の危険があることが分かっていながら、強制送還させる法案を思いつく、管理と監視と排除に基づいた冷徹で残忍な現政権の精神性。背筋が凍る。そんな政権下では、日本人であろうが何人であろうが命が守られるわけがない。